映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
その時期、青春や夢や生きる活力も与えてくれた場所だったのかも。



劇場の閉館


5月27日、渋谷シネパレスが閉館した。1948年の開館と言うから、戦後の大変な時期

に人々に娯楽を提供し、夢を与えてきた劇場だったのだろう。古くからある映画館が

閉館するのは、こころの風景が変わっていく様でとても淋しい。


2014年12月31日には、私が最もお世話になった新宿ミラノ座が、56年の歴史の幕を

閉じた。深紅の緞帳があった劇場で、文字通り最後の幕を閉じた。

この日のラストショーは「E.T.」。客席数1000人以上の大型スクリーンの劇場に、立

ち見が出るほどの大入りだった。階段に座り込んで観ている人も沢山いて、多くの人

に愛された劇場だったことが偲ばれる。通常の予告編がない代わりに、ミラノ座の歴

史を振り返るスライドショーがあり、それを見ただけで涙腺が緩む。「荒野の七人」

に「マトリックス」、「ダーティー・ハリー」、「007カジノロワイヤル」等々、懐

かしい作品が大きなスクリーンに映し出され、ポーンとタイムスリップした。そして

いよいよラストショー。

過去に「E.T.」を観た時には涙など流さなかったのに、ミラノ座最後の上映だと思う

と、感極まって号泣した。上映後には、職員の方々が登壇し、支配人がご挨拶。裏方

さんたちが浴びる最初で最後のスポットライトだっただろう。クラッカーが花火の様

に打ち上がり、小さな金の星がシャワーとなって降りかかる。「ああ、ここで、この

大きなスクリーンで、もう映画を観られないのか…。みんなが帰った後、暫くここに

一人で座っていたい…」なんて事を思ったりして。

新宿区民になって30年、ずっと足繁く通った劇場だった。シネコンの進出が続く中、

周囲の劇場が次々と閉館していくのを見て、いつかはこんな時が来るのだろうかと、

最も恐れていた事が現実となった。

家に帰ってバッグを見ると、キラキラの小さな星が忍び込んでいた。この星とラスト

ショーのチケットは、思い出としていつまでも取っておこう。並木座最後のチケット

と一緒に。


戻る