●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、連作の絵をじっと鑑賞しました。
心象月模様
漆黒の闇に大きく橙色に描かれた半月はドキッとするほど明るいが不気味だ。
昼間の青さが微かに残る天空に、小さく浮かぶ満月はキリっとして迷いがない。
ぼーっと浮かぶ朧月夜に桜の小枝が程よくかかり無駄がない。
煌々と光る満月は暗い林を見下ろし冷たく揺るぎない。
雲間から出た月は役者のように粋で気取っている。
月をテーマにした絵の数々。
すべて、バックの色は微妙に紺色、群青色、瑠璃色、鉄紺、藍色、鼠色などが混じり
合った暗い夜空をつくり、一色にまとめられ、均一に、或いはグラデーションに塗ら
れている。決して元の色は残さず混じり合った一色。単純明快なのに味わい深い。
作者は塗り方にこだわりを持っている。
油絵なのだが、一切絵の具を盛り上げず、均等にきっちり塗り込む。この塗り方を作
者のいう職人技だ。
隙がなく、きっちりと塗りこめられた空はのどかなのか風が吹き荒れているのかわか
らない。感情を入れずまったく静かで冷徹だ。
無駄のない計算された配置は隙もなく理知的で力強い。
かっちりと毅然と描かれた月の数々。
何事もあいまいにして妥協を強いる現代に、己の立ち位置を明確に主張することを示
唆しているのだろうか。
以上は銀座の画廊で開かれた、画家、仁戸部弓彦氏の『心象月模様』と題した新作展
を見ての感想である。
因みに仁戸部氏は私の昔の絵の先生であった。