映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
主人公は筆者の分身のひとりになったようです。



ぜんぶ、フィデルのせい


まず、タイトルが素晴らしい。

原題の直訳だけど、漢字を使っていないのがいい。これだけで「観たいッ!」と

思った。


1970年。パリで庭付きの邸宅に住み、ブルジョワ的な生活を送っていたアンナ

ちゃん一家。

両親が突然共産主義者になってしまったがために、9才のアンナちゃんの生活が

ガラリと変わってしまう。

優雅な生活からヒゲのおじさんたちが夜な夜な集まる息苦しい生活に。

楽しかった学校での宗教の授業も禁止され、プロヴァンスでのバカンスもなく

なった。

幼い弟はすんなり順応していくが、アンナにとってはたまったものではない。

カストロ嫌いの家政婦の影響を受けて、「わたしの生活がめちゃくちゃになっ

たのは、どれもこれも "ぜんぶ、フィデルのせいなのねッ"」と息巻く。

身勝手な大人への宣戦布告だ!

なんとも可愛い仏頂面が、弟を引きずりながら怒りの行進をする。キュートで

切なくて、忘れられないシーンだ。


大人に振り回されながらも、アンナはしっかりと自分の目で世界を見る。キョ

ーサン主義だって学んだゾ。

両親や周囲の大人たちの行動も、冷静に見る目を持って受け止めようとする。

二時間後には少し成長したアンナがいた。そうこなくっちゃ。


母性本能が著しく欠落しているくせに少女の成長物語に弱い私は、きっと何度

でもこの映画を観るだろう。


こんなところでカミングアウトでもないけれど、どうもアンナちゃんは私と同

い年のようだ。

この年、私も怒れる9才だった。


監督・脚本 ジュディ・ガヴラス(コスタ・ガヴラスの娘)
撮影 ナタリー・デュラン
出演 ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー、ステファノ・アコルシ、
バンジャマン・フイエ
2008年公開


戻る