思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードその12。





モロッコへいってきた

バスの窓から「小銭はいらん!」






ラマダンの最中とはいえ、旅行者と異教徒にはめしを食わせてくれる。

中アトラスの端にあるザード峠2178mを越え、しばらく平坦な道を走るとアトラス

山脈の山麓にあるデミルトの町に着いた。山麓といっても標高1488mもあるので日

本の山麓とは感覚がちがう。

ここデミルトでベルベル料理の昼食をとることになっている。車中Hさんから「お昼は

このあたりの名物マス料理をおたのしみいただきます」とアナウンスがあった。これを

聞いて、はてさて砂漠の国でマス料理とは、と思ったがこのちかくにはアトラス山の雪

どけ水が豊富に流れる大河がある。マスの養殖場もあるそうだ。


バスが止まったのは町はずれにある、ホテル・カスバ・アズマ。名前のとおり外観はカ

スバ建築を模してあるが中は近代的な造りになっている。玄関を一歩入ると床から柱ま

でモザイクタイルが貼られている。広いロビーを通りぬけた先にあるレストランもモザ

イクにかこまれていて、ちょっとした富豪になった気分だ。これも全面にモザイクタイ

ルが貼られたテーブルに着くと、から傘を半分すぼめた形の蓋がついた大きなタジン鍋

の形をした容器がはこばれてきた。さて、なにが出てくるかと楽しみにしていたら現地

のパンであった。つづいて出てきたベルベル料理は野菜の茹でたものと、オリーブ油で

炒めた日本でいうチャーハン。野菜はいずれも日本のものより味が濃くおいしい。最後

に出てきたマスのホイール焼きのおいしかったこと。日本の観光地で食べるマスの味と

はくらべようがなかった。

このあたりはリンゴの産地であるので、ビールをやめてリンゴジュースにした。一本

25ディルハム。日本円で約325円であるが、ビンのラベルをしげしげと見ていたら

なんと6.5ディルハム(85円)と印刷されていた。ホテルなので値段の差はあたり

まえだがこのおおらかさにはわらってしまった。


食事の間じゅう静かにベルベル人の民族音楽がながれている。これは玄関を入ってすぐ

に聞こえてきた。ロビーのまん中でベルベル人の楽師がギターのような民族楽器をつま

弾いているのだ。

食事も終わって時間があるので、楽師のそばに行きチップの皿がさびしかったので小銭

をおいたら、そのコインをとりあげてきびしい目つきで突っ返してきた。チップはいら

ないというのかと思ったがそうではなかった。

こちらに悪気はなかったのだけど、少額コインの価値がよくわからなかったので、大き

く立派にみえるコインをおいたのがいけなかったらしい。手振りでそんなのではダメだ

と言っていることがわかったので、あわててチップの相場5ディルハムを置くと、急に

ごきげんになって写真まで撮らせてくれた。あとでその時の硬貨を調べてみたら日本の

価値でいえば50銭硬貨を置いていた。これでは突っ返されてもしかたがないか。


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