思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせいから、わが国政府の精神レベルのお知らせ。





国連さま


日本人は、スイスと国連が好きだったはずだ。

スイスは永世中立を宣言しており、先の大戦の渦中にありながら中立をたもち、また

資源もすくなく物づくりで国がなりたっているので好きというより憧れがあったのだ

ろう。戦後すぐ「日本は東洋のスイスたれ」と言った政治家がいたくらいで、後の非

武装中立あたりもスイスをイメージしたのかもしれない。しかし、そのスイスも国民

皆兵など実態がわかってきてから、観光アルプス以外はあまり人気がなくなってきた。

つぎになぜ国連、国際連合が好きなのかわからない。戦前国際連盟を脱退して損をし

たトラウマか、あるいは日本人が大好きな「みんなで一緒にやりましょう」が理由な

のか。とにかく首相候補にまでなった大物政治家が、「自衛隊は国連軍に」と言った

し、北朝鮮の拉致やミサイル核開発問題でも「やれ国連が、さて国連で」と言うくら

い国連大好きなのだ。


その大好きな国連との間に隙間風が吹いてきた。

いま話題になっているジョセフ。ケナタッチ書簡が隙間風のもとになっている。

組織犯罪処罰法改正案(共謀罪)に対して、国連特別報告者ジョセフ。ケナタッチが

「法律の広範な適用範囲によってプライバシーに関する権利と表現の自由への過度の

制限につながる可能性がある」と安倍首相に書簡を送ってきた。

これに対して、安倍内閣は烈火のごとく怒り、政府談話で「この特別報告者と言うの

は、個人の立場で人権状況の調査報告を行うのであって、国連の立場を反映するもの

はない」とのべ、参院本会議においても安倍首相は「著しくバランスを欠き、客観的

であるべき専門家の振る舞いとは思えない」と答弁した。すなわち「個人の立場で、

しかも偏見に満ちた文書は問題にするのもあたらない」と言い切ったわけだ。

ところが、この国連特別報告者というのは、国連人権理事会の任命を受け、特定の国

やテーマ別の人権状態について事実調査・監視を行う専門家であって、ケナタッチ書

簡には国連人権高等弁務官事務所と明記されている立派な国連文書である、と安倍内

閣にとっていささか分の悪い検証もなされてしまった。

政府見解は、あれほど大好きだった国連。国連さま国連さまとすっかり頼り切ってい

た国連に真っ向から反論したわけだ。国連といえども万能ではない。ようやくそこに

気がついて日本も大人になったということだろうか。しかし、ケナタッチ氏に反論し

た政府書簡に対して「強い抗議は、ただ怒りの言葉が並べられているだけで中身のあ

るものではありませんでした」と言われてしまったのでは、まだ国連さまに楯突くに

は百年早いのかもしれない。


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