禁煙は、からだにわるい
肺炎さわぎいらい思考がにぶり、頭がぼんやりしたままになっている。当人は消耗した体力
がもどらないからだと思っているが、あれいらいご無沙汰しているタバコのせいでもあるら
しい。そのことを友人にこぼしたら「あたりまえだ。だからタバコをやめろと言ったのに。
こんど会うときいいものを見せてやる」といわれた。
さて当日友人は、小生が日ごろ語り聞かせる高邁な話の源泉がタバコにあることも考えず、
会ったとたんにタバコの害をひとしきりしゃべりまくったのち、鼻息荒く一枚の紙をさしだ
した。
それは、ハードボイルドで一世を風靡した小説家結城章治の、『ようやくタバコをやめた。』
と書きだす「禁煙」と題する短文のコピーであった。結城は、わかい時結核で両肺の形成手
術をうけている身でありながら、仕事柄か一日四,五十本多いときには百本のタバコを吸っ
ていたそうである。後年風邪をこじらせ心不全を起こして死にかけたが、それでも禁煙でき
なかった。しかしその後一服するたびに息切れがひどくなって禁煙を決心する。仕事とタバ
コが連動しているので一か月仕事をあけて半年ばかり禁煙をつづけてみたら『まるで人生の
大目的を達成したようで、頭がぼんやりしてしまった。』そうだ。創作を業とする小説家か
ら思考思索というものを奪ってしまう禁煙は体にわるいということだ。
口ではうるさく言っても、ちゃんと寛容のサイン送ってくれる親友とはありがたいものだ。 |