思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、過酷な旅から帰還のようです、エピソードその21。





モロッコへいってきた

バスの窓から「おどりに見惚れて」





シャワーをあびてゆったりする人、昼寝をする人と休憩時間が長かったせいか、遅れてくる人がいて今回

の旅行ではじめて5分遅れでバスは出発した。

20分ほど走って、安宿や地元の人しか利用しない店が並ぶ、うす暗い街にバスはとまった。ゴミがちら

かり店の軒先に人が寝転がっている暗い道に入っていくと50メートルほど先に煌煌と灯りが点いたとこ

ろがある。そこが今夜のレストランだ。古ぼけたビルの一階部分だけに凝った装飾をほどこした店はあた

りの景色から浮き上がっている。モザイクタイルで飾られた階段を上ると、民族衣装で着飾った美男美女

?が、手をふりながら身体がふれるほどにせまい通路に並んで出迎えてくれた。

出迎えでドギモをぬかれたが、床は絨毯が敷きつめられ、壁から天井までモザイクタイルで装飾された部

屋に入るともっとおどろいた。広い部屋の中央には楽師が陣取り民俗音楽を奏でている。それを取り囲む

ようにおよそ150席以上はあるとおもわれるテーブルがならんでいて豪華な雰囲気を醸しだしている。

イケメン揃いのウェイターにオバサン達がみとれているうちに食事も進み、デザートもおわるころ音楽の

テンポがかわってベリーダンスがはじまった。遠目には絶世の美女にみえたが、席のちかくで踊る姿をみ

るとたいそう肉付きのよい元お嬢さんだった。しかし、こちらではこの体形が美女の条件なのだ。ベリー

ダンスがおわるとローソクダンスがはじまった。ローソクダンスといっても怪しいものではない。火の点

いたローソクを数本立てた盆をあたまに載せて踊るのだが、いっさい手を添えずにしゃがんだり寝転がっ

たりする姿はダンスというよりアクロバットにちかい。

闇夜に浮かぶ不夜城のようなレストランで、食事と音楽とダンスを楽しんだあと、マラケシュいちばんの

名所、ジャマ・エル・フナ広場に向かって歩きはじめた。広場が近くなるとお祭りのような人出になった。

歩道にはテーブルがならべられ、食事をしている人も多い。そのすき間をぬって早足で歩くので昼間むり

をした足が動かなくなってきた。おおよその歩く時間も知らされずに人ごみの中をやみ雲に早足で歩かさ

れるので腹が立ってきてよけい足が動かない。休みながら歩くのでだんだん列から遅れはじめたら、Hさ

んが気づいてくれてなんどか足をとめてくれた。ようやく着いた広場は露店が並びその間では芸人が踊っ

ている。この人ごみのなかを歩くのはしんどいなと思っていたら、マイッタさんが近くのカフェに話しを

つけて「ここで座って待っていて」という。ほっとすると同時にこの旅いちばんの見どころを歩きまわれ

ないのかと思うとなさけなくなった。ところが脊柱管狭窄症というのは3,4分休むとすぐに歩けるよう

になる。ここで指をくわえて待っていることはない。さいわいイアホンガイドを持っているのでメンバー

の動きは手に取るようにわかる。近くに帰ってきたらカフェに戻ればよい、とまわりを見まわして歩ける

範囲のけんとうをつけて広場に出て行った。地面にマットをしいて物を売る人、蛇つかい、操り人形など

露店と大道芸人のあいだをぬって歩いていると派手な衣装で踊っているアフリカ人をみつけた。独特のリ

ズムではげしく踊る姿に見とれていると、踊りをやめたお兄さんがよってきてチップをよこせといってき

た。予想していたことなのですこしやりとりを楽しもうと「Old Coin」といって5円玉をさしだすとダメ

だというそぶりを見せたので、もったいぶって50円玉と1円玉をさし出したらえらい剣幕でわめきは

じめた。これはやりすぎだと思って相場よりすこし安い5ディルハムを渡すと急にご機嫌になって「写

真を撮れ」とカメラを指さしてまた踊りはじめた。じつをいうと、写真を撮るとかなりのチップを要求さ

れると聞いていたので胸元でシャッターを押したのだが、デジカメは距離を測るために赤外線ランプが点

く。それを目ざとく見つけられてしまったのだ。さすがになれたものだ。こつがわかったので芸人や商人

がこちらを見ていないところをねらって写真を撮っているうちに皆さんが帰ってきたのであわててカフェ

にもどり、すました顔をして座っていた。バスに向かって歩きはじめるまえにマイッタさんにたのんで近

くの店でタバコを買ってもらったが、現地の人が買っても値段はかわらなかった。ホテルにもどるバスの

中でテバちゃんに広場見物の様子を聞くと、ただゾロゾロと歩きまわっただけで店を楽しむ事もできなか

ったそうだ。留守番を言いつかったおかげで、短い時間であったがフナ広場の雰囲気にひとりでひたるこ

とができた。「厄転じて福となす」とはこのことか。


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