右にいこうか 左にいこか
きょうは、最寄り駅から右に乗っても左に乗っても花火大会がある。
右は河川敷、左は沼である。沼といっても鬱蒼とした木々にかこまれて河童がでるような
沼ではない。観方によっては湖といってもいいくらいの景色をもつ。では、沼と湖のちが
いはなにかというと、沼は水深5m以下、湖は水深5m以上で水面に水棲植物が繁茂しな
いということになっている。
右の河川敷は土手で見物することになる。土手の斜面に長い時間座るということは腰のた
めによくない。河川敷のほうが盛大なのだが… 迷ったすえ腰のことをかんがえて左の沼
に行くことにした。こちらは岸辺が公園になっていて腰かける石もあれば運がよければベ
ンチもある。
はやめに行って暑いなか待つのもいやなので、はじまる30分前に着くと、ベンチはもと
よりころあいの石も先客に占領されていた。しかたがないので公園と農地のあいだにある
空き地にむかった。ここは耕作放棄地であまり知られていない。平らなところはいっぱい
だったのでわきにあるコンクリートの土止めに腰かけた。目の前は畑で水面までさえぎる
ものはない。
これまでは花火というとカメラに三脚にビールと大荷物だった。そのうえ写真を撮るのに
夢中でろくに花火を見ていない。ことしはのんきに花火見物ときめて、ビールにおつまみ、
コンデジとウォークマンにかさばるけど音の良いヘッドフォンを持っていった。
日が陰ると沼をわたる風がここちよく、さきほどまでの暑さがうそのようだ。ビールを開
けジャズを聴きながらはじまるのを待つ。やがて第一発が上がるころには二本目のビール
に手がのびる。
たてつづけに花火が上がり始めるとウォークマンはベートーベンにかわる。ほろ酔いかげ
んでときどきコンデジのシャッターを切る。花火とビールとベートーベン。花火にベート
ーベンがよく似合う。右でも左でもどうでもよい一夜となった。 |