●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが見た世間の人々の諸事情(?)シリーズの14。
世間話シリーズ
諦めが肝心
これはある介護ヘルパーから聞いた話である。
彼女の勤める高齢者用のグループホームでは週に2回ぐらい、お年寄りを慰めるために
犬や猫など動物と触れ合う時間を組み入れることになった。
愛らしい動物の表情や姿やしぐさがお年寄りの心を穏やかにさせ、脳に刺激を与え活性
化させる効果があるそうだ。
かつてペットを飼っていたお年寄りも多く、昔を思い出したりして、このときばかりは
普段感情を失ったかのようなお年寄りが目を輝かせ、生き生きとした表情になるのだと
いう。
やがて、回を重ねるごとにそれぞれのお気に入りが出来た。が、なんといっても取り囲
むお年寄りは11人、ペットは2〜3匹なので、奪い合いである。
「あんたばかり触っていてずるい」
「だって、この子が私になついてんだもん、しょうがないじゃない」
なんていう喧嘩も始まるほど。
ある猫好きのおばあさんは
「自分の猫が欲しい」と言い出したそうだ。マイペットである。
「ねえ、私の部屋で飼うからいいでしょう」と駄々をこね始めた。こうなるともう子供で
ある。もちろんそんなことが許されるはずもない。
人間、歳をとると頑固にもなるし、わがままにもなる。
「あたしゃ、さびしいんだよ」と泣き出しわめき、手に負えない。
そのとき、隣のおばあさんがぴしゃりとこういったそうだ。
「我慢しなさいよ。今までだっていっぱい我慢して生きて来たんだろ。これからはますま
すできないことが多くなるんだから。もう諦めるしかないんだよ。年をとるってことはそ
ういうもんだ。人間諦めが肝心」
なかなか気骨のあるお年寄りである。
そのヘルパーは言っていた。みんなお年寄りは一つ一つ何かを諦めながら歯を食いしばっ
て生きているんです、と。
きっとそれは誰でもが通る道なのだろう。