●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、今は壊れやすいものに余計心惹かれるようです。



再びおかめ桜


夫の入院している8階の病室の窓から外を眺めている。

眼下には鳥山川が流れ、三角橋がかかり、グラウンドがあり遊歩道がある。

ああ、この既視感。昨年とまったく同じだ。川べりの小さな公園のおかめ桜が満開なのも。

まるで時間が止まったままのよう。

夫が膀胱がんを手術したのがちょうど昨年の3月。そして1年後の今年3月に再発をしたの

だった。いくら再発しやすい病気とはいえ、あまりにも早い再発にがっかりだった。

手術は膀胱鏡で簡単にがんを取り除いたのだったが、夫の場合、普段血液溶解剤ワーファリ

ンを服用していたので、手術後の血尿が止まらず、入院が長引いている。

私は病室へくると、必ず去年と同じように窓からぼんやり下の景色を眺め、おかめ桜を眺め

る。昨年は、いつまでも散らずにいじらしく咲き続けるそのおかめ桜に心を和ませたものだ

った。

でも、今回は何か違う。

葉も出さずに濃いピンクの花をいつまでもびっしりつけたままの姿に何か違和感を持つのだ。

きっと人間の手で、早咲きで華やかな濃いピンク色に、しかもいつまでも散らないように品

種改良をされたのであろう。

一見華やかだが陰影も情感も感じられない。

物事には裏も表も、明るいも暗いもあり、人生には喜びも悲しみも、幸も不幸もある。それ

らは大変なことだけど、深みと豊かさをもたらす。そんなことをしみじみ思うとき、今の私

にはツルピカの美しさには魅力を感じない。


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