クリスマスキャロル
わが家に1800年代末につくられた置時計がある。
もちろん現役。ただしウサギ小屋に住むかなしさ、時を告げる音は鳴らないようにし
てある。なにしろ風鈴の音さえ騒音になるご時世であるから…
24日クリスマスイブの朝、熱っぽいので測ってみたら37度4分あった。平熱が低
いのでふつうの人の38度くらいの感覚になる。老妻の「インフルエンザだったら大
変」の声におされてとなりの病院に行った。インフルエンザ検査の結果は(−)。簡
単な薬をもらって、安静にしているようにといわれたので静かにしていると夜には平
熱にもどった。
明くる25日。熱もないので自転車で買い物に走りまわり、午後はエアコンを入れっ
ぱなしにして年賀状つくりをした。夕方、ちょっとベランダにでたら猛烈な寒さを感
じ、身体がふるえてきた。38度をこえていた。熱にうかされながら、老妻の「ふら
ふら出かけるからもどったじゃない」の叱声を背に寝る支度をしていると、置時計が
時を打った。
ありえないことなので、「おむかえかな」とおもわず言うと「だれのおむかえよ」と
いうので「ばあさんの…」。
この時計は祖母の形見である。つい先日、祖母が目の中に入れても痛くないというほ
どかわいがっていた従妹の死の床を見舞いにいってきた。「このまま二人をつれてい
ってくれたら楽じゃない」というと「バカなことを言ってないでさっさと寝なさい」
とまたおこられたので、「おれは、スクルージほどわるいことをしてないのできっと
そうだよ」とこたえた。
零時をつげる鐘の音とともにあらわれる幽霊につれまわされて、自分の過去を見てま
わるのもわるくないだろう。そのなかには反省することもあるだろうし、そのとき感
じなかった人の好意もみることができて、未来に活かせるかもしれない。なれない熱
にうかされると弱気にもなり、つまらないことを考えるものである。
たしか、最後に未来の姿を見せてくれる幽霊の出現のときは、まばゆいばかりの光が
とびかうはずだ…
12/27 無記名さんからコメントが届きました。
ブラボー!/本年度イチバンのおしゃれなお話でした。 |