●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、今年の夏には不満が残ったようです。



夏が逝く


今年の夏は猛暑、厳暑、激暑、爆暑、と暑さの前に強烈な言葉を冠するほどに暑く存在感

があった。

夏女の私はアツイ、アツイと愚痴りながらも心の中はニンマリだ。

アツイという言い訳のもとに物事を先延ばしにしたり、何もしないでも許される気がして、

怠け者にとってこれほど好都合の季節はないのだ。

真っ青な空、まっすぐに降り注ぐ太陽の光に包まれると、開放感に包まれ、身も心も安心

しきって無防備でいられる。

なのに…なのにである。

今年は、お盆あたりから急に空気が変わったと思ったら、温度は下がるし、風さえも冷え

冷えとして、太陽さえも顔を出さなくなった。

いくつかの台風が日本に上陸すると、それに便乗するように夏はさっさと出ていってしま

ったのだ。

それはないだろう! この去り方はなんなのだ! あまりにも直角的ではないか? 

私の思う真っ当な夏の去り方は“秋来ぬと 目にさやかには 見えねども 風の音にも 

驚かれぬる”の世界である。

すべて去り際が肝心。もっと余韻を残して皆に惜しまれつつ去ってほしいのだ。

残された者は体の準備はもちろん、心の準備だって必要ではないか。

あんまりだ! 

それならば、かくいう私は、今年の夏が楽しかったのかというと、さにあらず。最悪の夏

だった。

夫が冬に患ったガンの経過観察として8月始めにガンの定期検診を受けた。そのとき医師

に疑わしき細胞有りといわれ、てっきり再発か! と思い込んだのだった。ところが幸い

細胞の分析結果はシロ。

結果が出るまでの3週間、真夏のギラギラ太陽が陰って見えるほど落ち込んだ。ようやく

愁眉を開いたというのに、大好きな夏は逝ってしまった。おまけに秋雨前線を引き寄せ停

滞させすっきり晴れない。

今やガンは恐れるにあたらない病気といわれるが、今度の検診で一度ガンにかかると常に

ガンと身も心もつきあわねばならないことを知る。

能天気の夏とはおさらばして、そろそろ人生の秋冬を考えなければならない時期だという

ことだ。

3か月後に夫は再び検診を受ける。その時は秋も深まっていることだろう。


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