思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
世間通のシャンせんせー、人ごみとのつき合い方も達者です。




うまい時間




夏といえば花火見物。

マンションが高台にあるので、越してきたころは5,6カ所見えた花火も、まわりに

高い建物ができたので今では半分も見えない。

遠くに見る花火もわるくはないが、やはり花火は近くがいい。風にただよう火薬のに

おい、腹にひびく爆発音。こればかりは遠くからではあじわえない。


家の近くの花火見物にでかけた。ここはわが家から見える数少ない花火だが、仕掛け

花火のかわりに地上すれすれに打ち上げる花火が評判で、遠くからは見えない。

会場までの直線距離はたいしたことはないのだが、JR,私鉄と乗り継いでいかなけ

ればならない。JRの車中、乗換駅では乗車制限をしている、とアナウンスがあった。

駅に着くと行列は延々と駅前広場までつづいている。整理をしている駅員に「Suica

を持っているのだが」と聞くと「SuicaもPASUMOも使えません。切符を買ってくだ

さい」という返事。これはえらいことになったと思って「往復切符はあるのか」とい

うと「あります」ということだった。行列に並ぶこと25分。ようやく切符売り場に

たどりついて「往復一枚」というと、なんと普通乗車券を2枚くれた。全線5.7km

のローカル線、往復切符なんてしゃれたものはないのだ。この合理性には感心した。


予定より遅く着いた会場のいい席はどこもいっぱい。そこで昔鍛えた勘とずうずうし

さで「ここ」という場所にもぐりこんだ。そこはカメラの放列の前で皆遠慮していか

ない。まわりに仁義をきって、じゃまにならないように三脚を立てるずうずうしさは

やはり経験のおかげか。

たしかにいい場所だった。はじまってみると打ち上げ場所の真ん前。おかげで打ち上

げ花火を追っていたら首がいたくなったかわりに地上近くの花火を写すには特等席だ。

帰りの駅もきっと行列になるだろうと、終わる20分ほどまえにひきあげた。それで

も駅に着くと10mほどの行列になっていた。これならすぐに乗れると思ったらおお

まちがい、10分ほどならんでようやく電車へ。始発駅なので座れたけど電車はいっ

こうに動かない。待つこと15分ようやく動き出したがさすがローカル線、予備の電

車がなくて臨時増発なんてできないようだ。


JRに乗り換えると目の前に4,5歳くらいの浴衣を着た女の子三人をつれた老人が

立っていた。どうやら孫とその友達らしい。降りる駅にちかづくと「これなら○○ち

ゃんは9時には家に着けるね。うまい時間に乗ったもんだ」とお祖父ちゃんが孫に言

ったら「お祖父ちゃん、時間にもおいしい、まずいってあるの」と聞いた。「どうし

て」と祖父が聞き返すと「だってお祖父ちゃん、うまい時間っていったじゃない」

人ごみをきらう人が多いが、そこは楽しい話しの宝庫である。


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