8/17のしゅちょう
            文は田島薫

(デザインの盗作について)


東京オリンピックのエンブレムデザインが欧州の劇場のそれに酷似してる、って言うんで

デザイナーから訴えられちょっとした騒ぎになっていて、盗作疑惑のデザイナーは人の作

品の真似などしたことがない、って言った数日後、だれかに調べられて、サントリーのバ

ッグのイラストに、またそれと酷似した別デザイナーの作品が発見され、トレース(原画

の通りに線でなぞって同じ絵を描く)を認めたんだけど、盗作は認めず、後日説明と。

オリンピックの方のは、偶然もありうる、って感じだったんだけど、バッグの方は、ふた

つ並べられて、独特のフォルムの矢印の中に「beach」って書かれてる書体から色から全

部が全くそのまま、原画の方は背景に薄茶のストライプが入ってるけど、トレースの方は

バッグの白地、ってだけの違いだったんで、こりゃ盗作そのものだろう、ってだれでも思

うだろうし、私もそれを見てそう思った。

それで、許しがたいいかんデザイナーだ、ってことで終わりにしてしまえばそれまでなん

だけど、しかし、よく考えてみれば、一線のプロがそんな見え見えの盗作して平気でいら

れるには理由があるはず、って考えてみたら、そう言えば、矢印の背景のストライプに気

づいて、ちょっと思いあたったことがあった。

多分、彼の言い訳はこうなんだろう、盗作疑惑でふたつの作品を並べて見せる側は、同じ

ような大きさで余白も切り取って見せてるわけで、原画の方も同じような商業的媒体のよ

うに見えてるけど、これは海岸の近くにあった実際の看板表示である、と、背景のストラ

イプはすだれ※1のようなもので、って。盗作疑惑デザイナーは海岸べりのイメージを切り

取る象徴として、その既成の看板を利用しただけのつもりなのだ多分。その看板のデザイ

ン価値を認めたんではなくて、実際にありうるリアリティを表したかったのだ、と。

とは言っても、どんなマイナー表現にも著作権はあるのだから、それを無断で使っていい

はずはないんだけど、疑惑デザイナーは自己評価が高いのだろう、自分がこのメジャーな

企業のバッグイメージにこの看板を切り取ったことで新たな斬新な詩的価値が生まれたん

であって、それをしなかったら、原画は海岸べりのただの平凡な看板に過ぎなかったのだ、

だから著作権の侵害は的外れだ、ってとこなんだろう※2

ま、いずれにしても、疑惑デザイナーは相当な腕前で、次々と結果を出して評価されて来

てたことは確かだと思うんだけど、情報化時代の今日、人々の美的感性は大きな時代の流

行に無意識のうちにリードされているわけで、彼はそのポイントをつかむのが上手いのだ。

一般の人々は、本当に創造的なものに出会うと、違和感や拒絶を感じることが多いのが美

術史的事実で、それが、ある信頼されるべき才能の何人かの支持で徐々に価値の共有が始

るわけだから、一旦評価が定まった価値観は一気に拡散し、安心して素人も、これはいい、

これはだめ、だのの評価をくだせるわけで、今回はたまたまメジャーな場面で油断が露呈

しただけで、だから今や、本物の創作について無知な関係者が仕切る世界では、こういっ

た盗作疑惑のようなものはいつでもどこにでも転がっているのだ。


※1:翌日の報道ででかい画像を見たら、すだれじゃなくてトタンの方が近そう。
※2:同じく翌日の新聞で、デザイナー当人はディレクションのみでトレースはスタッフが自分の判断でやった、と。




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