思いつくまま、気の向くまま 文は上一朝(しゃんかずとも)
シャンせんせいのガンリキエッセー。
予想以上の量のゴミ袋を持ち帰るハメになったせんせい夫妻の苦難。
車中寸景
日曜日の夕方、まだ行楽から帰る人も少なく電車はすいていた。
とある駅で大きなビニール袋をくくりつけたカートを引いた老人が二人乗ってきた。
どうやら夫婦者らしい。二人はカートの荷物が他の乗客の迷惑にならないように空
いた場所をみつけてバラバラに立った。
まわりの乗客は、薄汚い大きなビニール袋をみて異様に感じたようだが、とくべつ
臭うわけでもなく服装もこざっぱりしているので新米のホームレスくらいに思って、
いっとき目をむけただけで彼らを避けることもなかった。
ピンク色をしたビニール袋を見るとどこかの自治体指定のゴミ袋に野菜か草のよう
なものがぎっしりとつまっている。よくみると野菜ではないようだ。ホームレスに
しては持っているものがおかしい。きっとお金になる草なのだろう。
つぎの駅で空いた席に男が座った。しばらくすると隣に座っていた老婦人がしきり
にビニール袋に目をやる。ところどころ枝だか幹だかわからないがビニール袋をつ
きやぶって出ている薄汚い袋が気になるのだろう。やがてそのそぶりに気がついた
男はなにやら老婦人にささやいた。それを聞いた老婦人は納得したように軽くうな
ずくとなにごともなかったようにもとの顔にもどった。
次の駅で女が座った。すると隣りあわせになった若い女性がハンカチを出して鼻を
おおった。異臭がするわけではないのできっと汚いものに接したときの条件反射な
のだろう。しかし、あの汚い袋をもったオバサンがわたしのそばに来ないでほしい
と願っていたはずの彼女は席を立つことはなかった。
つぎの、つぎの駅で、大きな薄汚いビニール袋をくくりつけたカートをよたよたと
引きながら二人は降りて行った。