思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセーは、時代と共に粗雑に扱われるモノたちの価値をきちんと実証したいようです。



悠々自適




たまに昔の仕事仲間に会うと「まだ、なにか仕事をしていますか」と聞かれる。

「なにもしてない」と答えると、かならず「悠々自適ですね」といわれる。悠々自適とい

う言葉を聞くとおしりがムズムズしておちつかない。

悠々自適という言葉を調べると「俗事のことに煩わされず、自分の思いのままにくらすこと」

とある。

もっと俗っぽいつかいかたでは、「趣味に生きるゆとりある年金生活者」を指すそうだ。

ひと駅となりの街の商業ビルのなかにあるカメラ店がリニューアルした。広さも2倍くらい

になり、あつかう商品も格段にふえた。商品の大半は中古品だ。もともとこの店は中古品を

多くあつかうチェーン店で、都内の店は品が充実している。いままでは店がせまいためほん

のおしるしに中古品がおいてあったが、いまはちがう。わざわざ都内に行く必要も減りよう

やくここも…、の感である。


その中古品のなかにふつうのひとは手も触れないガラクタがある。いわゆるジャンク品とい

うやつだ。

このなかから使えそうなものを買ってきて再生することに無上のよろこびを感じる。

店のリニューアルいらい、980円、490円、720円とたてつづけに3本のレンズを買

ってきた。

いずれもつかえるものは中古価格で15,000円くらいするものばかり。

それらのレンズをバラして、清掃し、レンズのカビを落し、動作をスムーズにしてできあが

り。一本のレンズに2〜3日をかける。こんなことばかりやっているので、それが趣味かと

いわれるとそうではないのでこまってしまう。


世の中、「悠々自適」という言葉があてはまる人はたいてい趣味をもっている。

ひとつのことに集中してなにかをやりとげ、これが趣味でございますといえることを、世間

では趣味をもつという。ところが老生たびたび書いたように、世間のことばでいうと多趣味

である。その多き趣味が周期的にやってきて、ひとつのことにかかりきりになるとほかのこ

とはわすれてしまう。

趣味でなにかをやりとげるということがない。だから老生なにひとつきわめたものがない。

ゆえに世間さまに大きな声でこれが趣味ですといえるものがない。というわけで、いまだ

「悠々自適」の境地にいたらないという不安がおしりをムズムズさせる。


もし、「自分の思いのままにくらすこと」がなにもなさない昼寝であってもいいのであれば、

老生「悠々自適」といわれてもおちつきを失うことはないだろう。

写真は、この「悠々自適」のもとで再生された720円のレンズで写したものです。


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