●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、思いがけず、ものは考えよう、を実感しました。



福毛


遠縁の娘さんが結婚するというので挨拶に我が家へやってきた。

もちろんいまどきのお嬢さん、メイクはバッチリで瞬きをすればワサワサと音がするよう

な長いつけまつげ付き。

幸せいっぱいの彼女と話していて、気がついた。

顎からピロローンと一本の長い毛が伸びているのだ。きっと顔のメイクに意識が集中して

首までは目が届かなかったのだろう。

ある、ある。女にはこういうことって時々起こる現象だ。

まるで、突然変異のように産毛でもない長いヒゲ状のものが伸びる。いやこの言い方は正

確ではない。一本なので本人はまったく気がつかずにいつのまにか長くなっていてヒゲと

なっている。

昔、英語を習っていた時のアメリカ人の先生の顎からも金髪がピロローンと伸びてキラキ

ラ光っていたっけ。私は感心して人類皆同じ、という深―い感慨を持ったのだ。

そして私も以前、友達から「ヒゲ伸びているよ」と言われた経験を持つ。それも男性から。

私は恥ずかしくて、まるで女の私を否定された気がしてとても嫌な気分だった。

ところで、

くだんの娘さんにヒゲがあることを言おうか言うまいか、やはり気になって仕方がない。

私の経験からいえば、言われたら恥ずかしいし、気分が悪いだろうし、見て見ぬふりをす

るのが最も無難なのだが、嫁入り前だし、親戚だし、同性だし、後で恥をかかないで済む

しということで思い切って言った。

「○○ちゃん、長い毛が一本顎から出ているから切ってあげようか」

すると、

「あら、おばさん、やだ、知らないの? これは福毛といって福を呼ぶから切ってはいけ

ないのよ」

「えっ、そうなの!」

初めて聞いた。

「友達なんかも喉とか、脛にとかに一本生えることがあると、福毛だといって大事にする

のよ」

あっかっけらかんと言う。凶が吉になる大逆転の発想。なるほど、人生考え方でどうにで

もなるのだ。クヨクヨすることはない。


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