思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー夫婦、工事中と大混雑とドロボー、って大声の間を歩きました。



ボンジョルノ・イタリア(6)ローマその4




フィレンツへ先回りするキャリーバックを廊下に出して朝食へ。

出発まですこし時間があるので玄関先でタバコを吸っているとKさんが来て、きのう乗ったタクシーの

様子や街中で危ない目に遭ったか、いやな思いはしなかったかとつっこんで聞いてきた。フリーで歩く

人の情報がほしいらしい。

時間通りに来たバスに乗ると、現地ガイドのキタズネさんを紹介された。ローマ在住の年配の女性であ

る。運転手はジョンバルニ氏。イタリア映画に出てきそうなしぶい男だ。

キタズネさんは観光案内よりもローマの治安についてしつこく警告した。いわく「歩いているときや何

かにみとれているときにすっと寄ってきて腕にミサンガをはめてしまい「さあ、買え」と脅かすヤツが

いる。ジプシーが集団でとりまいてきて中の一人が注意をそらせ、そのすきにカバンやザックから財布

をぬきとる。しかもぬき取ったあとファスナーを閉めておくのでしばらくとられたことに気がつかない

ので気をつけてください」等々。このような芸術的スリは戦後の日本にもいた。スリとった財布から現

金をぬき取り財布をもとにもどしておく。つぎにお金を出すまで気がつかないというわけだ。


バスは、コロッセオへ。開門まで30分ほど待つことになった。「寒いから日向ぼっこをどうぞ」とい

われたのでまわりの写真を撮りながら開門を待つことにした。寒さとひきかえに、コンスタンティヌス

の凱旋門や、外からだが隣接するパラティーノの丘の遺跡をゆっくりと見ることが出来た。

このころになるとメンバーの顔が見えてくる。平日の旅行にしては若いカップルが多いと思っていたら、

新婚旅行が5組。あとは老年夫婦が5組と一人歩きの女性が二人に母娘連れだ。

入り口のトンネルをぬけ、息を切らせて階段を登ったコロッセオはテレビや写真で見なれているので特

別な感慨はわかない。たしかに実物の迫力はあったが、印象にのこったのは入り口ゲートにいた制服姿

も凛々しいとびきり美人の女性職員だった。

次の観光地トレビの泉はあいにく工事中だった。足場が入り組んだ工事現場を見るのだからおもしろく

もなんともない。泉のそばには、コインが沈んだ代用品のミニプールが作ってある。これでもご利益が

あるとか。まあ、大半の人は二度とトレビの泉はみられないだろう。いや、いまのほうが後ろ向きにコ

インを投げ入れるのがむずかしいから、代用泉に投げ入れた人はかならず、またローマに来られる。

午前中最後の観光地スペイン広場の混雑もはんぱではない。これならスリ、かっぱらいがいても不思議

はない。映画「ローマの休日」で有名にならなければわざわざ見にくるところではない。すこしはやい

が昼食のレストランへ向かうためにバスまで歩く。市の中心部は道路が昔のままなので、どこへ行くに

もバスを近くに止めることができない。


昼食をすませヴァティカン博物館へ向かう。道は休日の繁華街のように混んでいる。道すがらジプシー

の一団を見つけるとキタズネさんは「みなさんドロボーがいますよ。気をつけてください。ドロボー、

ドロボー」と一段と声をはりあげる。たしかにあぶないのだろうけどいい気持ちはしない。おそらく顔

を伏せたジプシーは「ドロボー」の意味がわかっているのだろう。

ヴァティカン博物館はものすごい混雑だ。その混雑を縫って行くキタズネさんの足の速いこと。おかげ

でイアフォンガイドの説明と目の前の絵や彫刻が合わない。そのうえ身長が150センチあるかないか

の小さな人なのでときどき見失ってしまう。あとで聞いたら70歳を超えているという。おどろくべき

スーパーバアサンだ。

ヴァティチカン博物館の収蔵品は、いずれも名画、名彫刻であるはずなのだが混雑のため迷画、迷彫刻

にしか見えない。しかし、歴代法王のコレクションであるだけに、頭に迷がついてもすばらしいものだ

った。なんとかキタズネさんを見失わないで今回のツァー最大の見どころシスティーナ礼拝堂へ到着し

た。システィーナ礼拝堂は、コンクラーベが行われる神聖な場所で写真撮影はもちろん私語も禁じられ

ている。ところが入ってみると中は山手線のラッシュ並みの混雑で、私語、写真撮影を禁じる警備員の

注意もとどかず、かえって警備員の声のほうがうるさい。礼拝堂のなかは混雑に不平をいうもの、どさ

くさにまぎれて写真を撮るものと終始がつかない状態になってきた。そこで警備員が行列に割って入っ

て流れを切ってしまったため、あと一歩というところでとり残されてしまい5分ほどグループからはな

れてしまった。ようやくシスティーナ礼拝堂を脱出してサンピエトロ大聖堂へ歩いて向かう。車道にあ

ふれるほどの混雑のなかを絵葉書や例のミサンガをもった物売りがまとわりつく。これもみなジプシー

かアフリカからの密入国者だ。

サンピエトロ広場に着くとこの日は、法皇の野外ミサのため広場へは立ち入り禁止になっていた。現在

の法王は信者との交わりを大切にしてやたらにミサをやるそうだ。そのうえ悪いことにヴァティカンは

その予定を一切外にもらさないため、聖堂に入れるかどうかは行って見なければわからないという。

現法皇は、信者に評判のいいかわりに旅行業者泣かせで業者には評判がわるいとか。われわれは昨日見

ておいたのでラッキーだったが、きょうが初めての人は気の毒であった。

混雑のためバラバラになってしまった一行は、あらかじめ決めておいた集合時間にヴァティカンの地下

駐車場入り口に集まった。大型バスが何十台もとめられる大きな駐車場だ。さすが観光で稼いでいると

ころはちがうと思っていたら、世界中から集まる巡礼のためだとか。きょうの混雑も法皇の祝福を受け

るために集まった巡礼のせいだそうで、長年ガイドをやっているキタズネさんもこんな混雑ははじめて

だと言っていた。


バスは、フィレンツェへ向かう高速電車「イタロ号」に乗るためにキブリティーナ駅へ。駅舎は、古都

ローマとうってかわったモダンな建物で、内部も日本のターミナル駅とかわらない。かわったところは

日本とちがって混雑してないので駅全体がスマートにみえる。

4時15分発の「イタロ号」は4時29分にフィレンツェへ向かって出発した。始発駅なのに平気で遅

れる、この辺も日本とちがうところだった。


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