思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー夫婦の行動力は是非ほどの観たいものへの情熱が支えてるようです。



ボンジョルノ・イタリア(3)ローマその1




バスに乗るとKさんが運転手を紹介した。名前はエンリコさん。なかなかの男前だ。ビールと水を持っ

ているという。ふつう運転手は水を持っているがビールはめずらしい。このときビールを買わなかった

のがあとで泣きをみることになる。

バスは高速道路に入る。まわりの景色は倉庫、大型店舗、レストランと日本の風景とかわらない。市の

中心部をぬけると急に街並みが暗くなった。

テヴェレ川をわたると街並みはますます暗くなった。暗いといっても夜の8時。まだまだ人通りはある

し車も沢山走っている。それでも暗く感じるのは店の明かりが日本より暗い。そのうえ街路樹が鬱蒼と

しているので暗く感じる。なにより日本とちがうのは残業でビルの明かりが煌煌と点いていないことだ。


バチカンの裏手方向にあるホテルは住宅街のなかにあった。住宅街といっても日本のように戸建住宅が

並んでいるわけではなく、アパートが立ち並んでいる。アパートとバカにするなかれ、日本の安アパー

トとはちがう。みな築80〜100年の日本式にいえば4LDK、5LDKというどっしりとした5階

建ての建物である。

ロビーで部屋割りをすませ受け取ったカードキーを差し込むが鍵が開かない。なんどやっても同じ。さ

ては不良カードとイタリアの技術力を疑うころに裏返しに差し込んでいることに気がついた。大騒ぎを

しなくてよかった。

部屋に入り少し落ち着いてから、近所のスーパーへ出かけた。出発前の作戦では夕食とビールはそのス

ーパーで調達することにしていた。ところがそのスーパーはいくら探してもみつからない。くたびれて

部屋にもどり荷物もかたづいたころ室内禁煙なので外へタバコを吸いにでた。もういちどスーパーを探

そうとホテルのカウンターで聞くと親切に地図に○をかいてくれた。これなら万全と探してみるがそれ

らしいものはみあたらなかった。

食事もなし、ビールもなし、こうなったら寝るしかない。うとうとしたころ目覚ましが鳴った。えっも

う朝と時計をみるとまだ寝てから一時間もたっていない。起きてしらべると予備に持ってきた目覚まし

が日本時間で鳴っていた。また、音で目が覚めた。時刻は2時半。なにごとと調べてみるとお大師さま

の携帯の充電終了の音だった。こうして散々な夜が明けた。6時半、外はまだ暗い。


きょう第一日は終日自由行動である。ほんとうは初日にガイドをしてもらってあくる日がフリーのほう

が街の見当がついてありがたいのだが、逆はつらい。

文句をいってもはじまらないのでこの日の計画はたててある。まず、サンピエトロ寺院のクーポラに登

って、その展望台からバチカン広場を見おろす。次にビザンチン様式のモザイク壁画がのこる教会二ヶ

所にいくことだ。クーポラというのはドーム型屋根のことでその展望台から見下ろすと絵葉書等で有名

な半円形の回廊に囲まれたバチカン広場が見られるというわけだ。じつはお大師さまは40年前にロー

マをおとずれている。そのとき見られなかったので、というたっての願いである。クーポラに上がるエ

レベータは混むという情報を得ているので早朝の出発となった。


バチカンまでは、歩いて30分くらいなのだが時間がもったいないのでタクシーでいくことにした。ホ

テルで呼んでもらったタクシーはすぐにきた。走って10分弱、8時にバチカンに着いてしまった。

サンピエトロ寺院はとにかくでかくて広い。朝のバチカンはまだ人影が少ない。お大師さまは先輩面を

して地図で入り口をさがしているが、こうなるとこちらの方が強い。机上の計画はからきしダメなのだ

が現場にたつと超人的能力を発揮する。入り口はすぐにみつかりゲートで簡単な荷物検査を受けて案内

板とおりに歩きクーポラのチケットを買う。

乗り込んだ大型のエレベータの止まったところはドームの付け根のところだった。展望台へ行くにはそ

こからドームの天井と屋根の間につくられた螺旋階段を三百数十段登らなければならない。われわれの

足ではむりなのであきらめることにした。お大師さまの夢ははかなく砕けた。回廊にでると真下に礼拝

堂が見下ろせる。広い。上を見ると天井の壁画がまだ遠くに見えた。でかい。どちらも金網越しでしか

写真が撮れないのが残念だった。

回廊を一周して屋上に出ると外は快晴で気持ち良い。人影のまばらな屋上には驚くことに売店があった。

聖なる礼拝堂のうえに売店という俗なるものがあるとは。もっと驚いたことはところどころにあるゴミ

箱のうえが灰皿になっていることだ。心ゆくまでタバコを吸いキリストさんの心の広さに感謝した。

売店でジュースとストラップを買い、ベンチに座って上を見るとドームの展望台にいる人影がみえる。

ほんらいならあそこにいたはずなのにと、わが身をなぐさめながら屋上のはじから少し見える広場の回

廊を見おろして自らの不運をなぐさめた。

上がってきたのと別のエレベータで降りる。いよいよサンピエトロ寺院の聖堂である。とにかく広い。

横幅が58mあるそうだから、サッカーはむりでもテニスはできる。廊内をみわたすと絢爛な装飾に目

がくらみこれがミケランジェロでございといわれても、ああ本物だと思うくらいで特別な感激はわかな

い。朝がはやいせいで贅沢に見ることができた。外に出てサンピエトロ寺院を見返すとやはりでかい。

バチカンはどうでしたと聞かれても大きかったとしか答えようがない。クーポラを見上げると展望台に

人の影。こんちくしょう。


いつまでもくやんではいられない。次の目的地サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会へタクシー

でむかう。ローマのタクシーは気をつけろといわれていたが地図で調べておいた最短距離を走ってくれ

た。途中見かけた露店の市場。距離が近いので後で行きたいのだが複雑におれまがった道はとてもおぼ

えられないのであきらめた。

サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会にはお目あてのビザンチン様式のモザイク画がある。

タクシーを降りて運転手に教えられるままに進むと教会の前にでた。教会は大きな石の箱とでもいうよ

うな質素な作りだ。ほんとうにこの中に目当ての壁画があるのだろうかと心配になった。

中に入っておどろいた。内陣のつくりはサンピエトロ寺院より神聖な感じがする。たとえはわるいがサ

ンピエトロ寺院がデパートとするならこちらは老舗の専門店という落ちつきをもっている。

お目当ての壁画はみごとなものだった。ビザンチン様式で作られた堂内にあって違和感がない。まだ団

体客の来ない時間なので心行くまで鑑賞することができた。記念にイコンを買おうと売店に立ち寄った

が値段の高いものでも手描きのものがなかった。不信心ものは美術的価値でもとめるが、ここは質素に

目覚め記念に一枚もとめた。

時間は昼近くなったので教会前の広場にあるカフェも賑ってきた。ひとやすみしようとそのなかの一軒

に入った。


戻る