仕事をじゃまするもの
処分する本を整理していたら「絲綢の道はるか」という本がめについた。画家安野光雅の
絵と作家澤地久枝の文からなる中国西域地方の旅行記である。
とっくの昔に読んだ本なのだがページをめくるうちにおもしろくて目がはなせなくなって
しまった。
旅行記というものはあまたあるが、たいていは旅行先の描写かできごとがつづられていて
旅行に行った本人以上に楽しませてくれるものはすくない。
ところがこの本は旅行とはかくあるべきということをおしえてくれる。おしえてくれると
いうより旅行とはこのように楽しむものだということを知りうらやましくなる本である。
道中両氏はその日の感想で連句をつくることにした。日が経つにつれどうも乾燥した大地
に連句はそぐわないとなって漢詩をつくることにした。
もとよりご両氏は学校で教わった以上の漢文の素養があるわけではない。
「こだわっていると、なかなかできないんだ」
「一応書いて、あとで推敲することにしたら」
「その一応ができない」
「え?二応はできて?」
というような会話をかわしながら、本来の旅行記のなかに余技である漢詩をつくるさまが
おもしろおかしく書かれていて、一点集中の旅行はいかにつまらないかがわかる。
こういう本に出会うと他のことはおろそかになる。そう、大掃除のときに畳の下からでて
きた古新聞のように仕事のじゃまをする。
と、いうわけで一大決心をしてはじめた本の整理は頓挫したままである。 |