思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー、通じない言葉に、なにか思い当たったようです。



「はんまいきりありますか」


「はんまいきり」と聞いて、すぐになにのことかわかる人はすくないだろう。

デパートにあるパン屋でのこと。

となりのレジにあらわれた老婦人が、6枚切りの食パンをさしだしながら「これのはんま

いきりありますか」と聞く。これをうけたパートとおもわれる中年の女店員が「さんまい

きりですか」と聞き返すと「そう」と答える。

食パンの三枚切りというのはあまり聞かないので、女店員は手で食パンの上で「こうです

か」と食パンを三枚に切るしぐさをすると、老婦人は「ちがいます。はんまいきりです」

と言う。困ってしまった店員は、売り場の主任らしい店員のところへ行って相談をする。

かわって出てきた店員が「お客様、三枚切りもできますが、いま切ってないパンがござい

ませんのでできません」とていねいに断ると老婦人は、「今じゃなくていいのよ。はんま

いきりができますか、と聞いてるの…」と答える。当惑顔をしながら「どのようにお切り

しますか」と店員が聞き返すと、老婦人はパンの上で半分に切るしぐさをして「こういう

の」とじれったそうに答えた。

老婦人は、食パン一斤を半分に切ったものがほしかったわけだ。食パンを半分に切ったも

のとか、半斤くださいといえば簡単なのに「はんまいきり」なんて言うものだからややこ

しくなる。「二枚切り」とは言わない。ふつうは「半分」という。それを「はんまいきり」

とは初めて聞く。


言葉というものはおおやけのものであると同時に個のものでもある。地方、職場、家庭に

はそれぞれ独特の言葉があることはたしかだ。「はんまい」もきっとこの老婦人の生い立

ちのなかでふつうに使われていた言葉なのだろう。このように狭い範囲で理解されている

言葉を世間一般につかわれるとこまる。安倍首相の唱える「集団的自衛権」「従軍慰安婦」

「世界平和」「アベノミクス」etc…。いずれも安倍首相個人の解釈で話されていないだろ

うか。

つまり、「わたしはそのつもりで言っている」と…。

ところが世間は同じにはうけとらない。パン屋の珍問答も「はんまい」を「さんまい」と

聞き違えたことに原因がある。このように相手の言葉を正確に理解しないで同意をすると

後々面倒なことになる。さきの安倍首相の言葉もその真意を確かめずに同意をすると、と

んだ「はんまいきり」になってしまう。


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