●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、好感と不快をいっぺんに両方味わえたようです。



街角にて


地下鉄日比谷駅の近くで信号を渡ろうしているとき道を聞かれた。

二人連れの中年女性で、ちょっとドレスアップした小柄な婦人とちょっと陰気な感じの

背の高い婦人だった。

「宝塚劇場はどこですか?」

えっ、この辺に宝塚劇場ってあったかしら…帝劇、日生劇場なら知っているけれど…

こちらも不案内で言葉に詰まっていると、小柄な方の女性が

「練馬からきましたもので…」

と言い訳のように言って、全身で恐縮し困り切っている。

こんなとき、なんとか役に立ちたい…と誰でも思うだろうし、私も思った。

見ると彼女は両手にひらひらとチケットとマップを持っていたので、頭を寄せて見ると、

マップは帝劇を示していて、チケットは明らかに宝塚劇場となっている。

あら、変ね、この出し物を帝劇でやるのではないかしら…などといって、もたもたして

いると、一方の背の高い女性はさっさと先へ行ってしまうので、もう一方の女性が、

「ねえ、待って!」と叫んでいる。

すると、背の高い女性は戻ってきたけど、こちらを無視して、別の通行人を呼び止めて

道を聞いていた。

その人は、はなからこちらを信用していないようだ。

マップから、そうだ! 日生劇場の隣が宝塚ビルだ! この先まっすぐですよ。

ということで、無事に二人を見送った。

小柄な方の彼女は、もう一人のむっつりとした連れとは対照的に、ニコニコとお辞儀を

してこれからの観劇の期待を全身ににじませ、嬉しそうな足取りで去って行った。

この小さな出来事はなかなか示唆に富んでいる。

人には好感度というものがあって、好感度があれば人の善意を動かすことができる。

好感度とは無邪気に自分をさらけだし、人の意見を素直に受け取ることのできる度量で

ある。知ったかぶりや思い込みはもっともいけないと思ったことだった。


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