思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセーが、友だちから聞いた、って話。



居るなら、そう言え


夫婦ものをさして、似た者夫婦とか似た者同士がくっついたという。

この言葉の親戚に、「類は友を呼ぶ」がある。

その類が呼んだ友、とも子ちゃんは話がうまい。とくに酒席ではひとり舞台になる。

おしゃべりの人には、ひとつの話を十にわけておなじような話をする人がいるが、とも子ちゃ

んはちがう。十の話には十の話題がある。

とも子ちゃんと話をしていて、「ふりこめ詐欺の被害額が二けたの億だってね。世の中金持ち

がおおいね」と言ったとたん「うちなんか全員に電話がありましたよ」と話をつづけた。


とも子ちゃんの家は四人家族。両親、とも子ちゃん、弟である。その全員にふりこめ詐欺の電

話があるそうだ。あまりたびたびなので電話がかかってきてもだれもあわてない。

ある日とも子ちゃんを名乗る者から電話があった。

「おかあさん、へんなやつにつかまっちゃってお金がいるの」と半泣きの声で言ってきた。

電話にでた母親はなれたもので「うちの子はあんたのような声じゃないよ」と答えると、ヒー

ッと泣きだして「おかあさん信じてくれないの」と泣きだした。そこで母親は「あんたのよう

に高い声がでるならとっくに嫁に行ってるよ。バカ!」といって電話を切った。

ともこちゃんは、かわいい顔に似合わずドスのきいたガラガラ声である。母親はそのせいで嫁

に行けないと思っている。


父親の場合は、「お宅のご主人がけがをされまして…」と同僚を名乗る男から電話があった。

その日父親が行っている場所とちがうので母親に軽くいなされてしまった。ところがあくる日、

その父親が酔っぱらってホームから落ちて大けがをした。

母親の場合は、ひまなときには当人の姉に化けてからかうそうだ。


「あ、おかあさん。おれ、へんなとこに泊まっちゃって金がいるんだ」と弟のたもつくんから

電話があった。たもつくんは大学五年生。外泊もたびたびある。

「いま、お金ないから誰か友達に借りなさいよ」とおかあさん。

なおもしつこく言ってくるので父親が代わった。

「なんだおまえ、金がいるなら自分で稼げ。だいたいおまえはたもつじゃないだろ」

「おとうさんまで信じてくれないのかよ」

「たもつはここにいる」

「なんだ、そこにいるのかよ。居るならいるとはじめから言ってくれ」


戻る