●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの家の正月、それなりに話題の花が咲いたようです。


おせち料理


今年のおせちは私の体調が悪かったのでデパートからのお取り寄せで済ませてしまった。

和洋中の三段重で40種類以上の料理が彩りよくちまちまと詰め込まれていて、さすがプロ

だと感心した。

これを自分で作るとなると大変な労力で、例年なら暮れの29日頃から日持ちのするものか

らおせちを作り始めるのだが、それでもスカスカおせちだったり、彩りが悪かったり、人気

のないのは余らせてしまったり、と主婦にとっては頭痛の種なのだ。

元日はアメリカ暮らしが長い義姉を交えて5人でおせちを囲んだ。

おせちは珍しいという義姉は万遍なくお取り寄せおせちを食べて喜んでいたが、私たちは味

が濃いだの、見かけ倒しだの、やっぱり冷凍だったからねとあら捜しをしながら、もっぱら

家で用意したお刺身や煮物に手がのびた。

「そういえば、去年和食が世界無形文化遺産に指定されたけど、本当はおせちは和食の最た

るものなのよね」

と娘がいうので、

「そうよ、黒豆、なます、田作り、数の子、酢ばすなどみんな願いを込めた縁起物なのよ」

と私がいえば、夫が、

「このおせちは偽物だ。和洋中華といろんなのが入って多国籍おせちだ」

と言い出した。

「そんなこと言ったって口の奢った現代人には素朴なおせち料理は合わないから適当に脂っ

こくて、口当たりの良いものを入れるのよ。逆に家庭料理とは違った味をださなければ受け

入れられないんじゃない」

と私が言い訳っぽくいえば、義姉がいう。

「とにかく日本では世界中の食べ物が食べられるわね。それに日本はとても変わった。なん

でもありの国になって、伝統というものが軽くなり節操というものが無くなっているわよ。

和食が世界文化遺産に指定されて良かったじゃない。これで伝統的なものが守られることに

なるわね」

「とはいってもねえ、おばさん。文化遺産になって得したのは高級食材を使って手間暇かけ

た高級日本料理店だけで、庶民の食卓はどんどん手軽な既製品や外食になってさ、手作りの

一汁三菜を守った純粋な和食なんてありませんよ」

と少々酔っぱらってきた息子がからんできた。

「その通りだ、和食に伴うしきたりや作法までひっくるめて世界遺産だからな。若い家庭で

は無理だろう」

夫まで同調する。

つまり、世界文化遺産になったからって昔ながらの和食に戻ることはないという結論になり、

「我が家でもこうして通販おせちなんだからね」

と手抜きのとばっちりがこちらに回ってきたのだった。


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