●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
雑多な雰囲気の存在理由。



シリーズ 街角ストーリー

しんみち通り


私の所属する同人誌の会合が定期的に四ツ谷駅近くの喫茶店ルノアールの会議室で開かれる。

地下鉄南北線の四ツ谷駅ホームを降り、延々とエスカレーターを乗り継いで地上へでると、

新宿通りと外堀通りが交差する四谷見附の交差点に出る。

見附とは江戸時代に城門があって見張りの者が置かれた所だから特別な場所だったのだろう。

ここは高い台地になっていて見晴らしがいい。まず重厚で華麗な陸橋・四谷見附橋に目を奪

われる。下にはJR中央線が走っている。

ぐるりと見渡せば外濠公園へ続く樹木が目にやさしく、駅ビル「アトレ」も大きすぎず地味

な外観で、片側3車線の大通りはゆとり感がある。近くには上智大や聖イグナチオ教会があ

るのでどこか落ち着いた雰囲気があるのもうなずける。

さて、私の目指すルノアールは、広い外堀通りから横丁を曲がったしんみち通りにある。こ

の狭い通りに一歩入ると、今までのモダンな表通りと異なって、色彩が溢れゴチャゴチャと

雑多なものがひしめきあっているような感じに一転する。

それもそのはず、狭い路地の両脇は殆どが小さな飲食店なのである。

安さと旨さで行列のできる店とか赤提灯の一杯飲み屋とか居酒屋チェーンなど垢抜けない店

とかが並び、夜ともなると店先にネオンのついた派手な看板を置き、客引きのアルバイト店

員が声をからしている。

メイン通りのちょっと取り澄ました落ち着いた雰囲気とは似ても似つかぬこの落差は何なの

だろう。

地理的にいって高級感のある港区や千代田区のはずれで新宿区だから? お金のない学生が

来るから? 周りにあまり一流企業がないから? 

それにしてもいかにも裏通りという感じである。看板に派手に書かれているメニューを見て

も若者向けというより、焼き鳥だったり、炭火焼きだったり、おでんだったり、結構おじさ

ん好みである。

だが、長いこと通っているうちにこの通りには節度のようなものがあることに気がつく。

熾烈な競争を展開しているのだけど、決して店の矜持をはずさない、とか、サラリーマンの

一日の疲れやストレスを発散するための役割をきちんと心得ている、とか。

もしかしてこのしんみち通りは、後からできた周りの大学とかオフィスの人たちの飲食の受

け皿というよりも、昔の江戸時代の役人向けの飲食街としての歴史があり、その名残の雰囲

気が脈々と続いているのかもしれない。裏通りにこそその町の本当の歴史があり、個性があ

るのだろう。


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