思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、最後の一滴までロシアを味わったようです。



露国赤毛布

13.ダ スヴィダーニャ ロシア




いよいよロシアともおわかれである。

クレムリン見学もおわり、バスはみやげもの屋に向かう。モスクワもサンクトペテルブルグも

名所に公衆トイレがすくないので、トイレタイムと称してみやげもの屋へ連れて行く。

ミハイル氏もアンナさんも、ガイドにつきものの露骨に土産物屋へつれていくことはしなかっ

た。5日間の滞在でトイレタイムは三回。ま、結果はおなじことだけど素直になれる。


みやげもの屋に入るといい香りがする。どこの店もウォツカのサービスがある。わけあって強

い酒をひかえているので20個ほど並べてあるシングルより少し多めに入ったグラスの前を素

通りする。酒飲みは意地が汚い。素通りでもしっかり横目で酒の量を計っている。

ざっと店内をひとまわりしてもどってくるとグラスが3個残っていた。今日が最後だし、せっ

かく本場のウォツカだ、と飲むことにした。おそるおそるなめてみたがなんともない。

そこでグッとあおるとこれが美味い。お代りに迷うほどだった。そこは我慢をして店内にもど

った。必要なみやげものは買ってしまったのでもう買うものがないはずなのだが、この先みや

げは買えないと思うとつまらないものでもほしくなる。絵葉書と磁石で止めるワッペンと絵皿

を買った。大師さまももういらないといいながらストラップをいくつか買っている。

外は冷えてきた。それでも背中のあたりがポカポカと暖かい。ウォツカのせいだ。

日本で飲むと顔がカッカとするのだが、それがなくて身体中がホンワカと暖かい。ロシア人が

ウォツカを手放せないわけがわかった。


いよいよ空港へ向かう時間になった。バスの中で、時間に余裕があるのですこし早いけど夕食

を食べにいきますと説明された。空港へ向かう街道沿いにあるショッピングモールは一階がス

ーパー、二階がフードコート、三階が専門店と日本にあるものとすこしも変わらない巨大な建

物だった。一時間の予定で各自食事をすることになった。道路から50メートルほど離れた建

物に向かう道は半分がぬかるみだ。なんてひどいところだと思ったが考えてみれば近くに住宅

地がないから歩いてくる人はいない。


三階まで吹き抜けのホールからエスカレータで二階に上がる。ほかの皆さんはめんどうくさい

やりとりを避けてアメリカ式の店に向かったがわれわれはロシア料理を食べることにした。冷

蔵された料理を電子レンジで温めるのだがことのほかおいしかった。三人のオバサンとも身振

り手振りで完璧に用が通じる。シャンさんが注文したものが先にできたので、待たせては悪い

と思ったのか大師さまの料理はレンジから早く出し過ぎて中身に冷たい所があった。ありがた

いような、なさけないような親切である。


食事がおわるとシャンさんにはあるミッションがまっていた。

手持ちのルーブルを使い切ることだ。ロシアという国はおかしなもので大国でありながら通貨

ルーブルを円に換えてくれるところは日本ではすくない。それも多大な手数料をとる。

というわけでのんびりとコーヒーを飲む大師さまをのこして一階のスーパーへ走った。

スーパーのゲートを通りぬけ、チョコレート売り場で品定めをしているとガードマンに肩をつ

かまれた。なにごと、とふりかえるとこっちへ来いと身振りで示す。まさか万引きとまちがわ

れたのではと一瞬青くなる。ゲートまで連れて行かれると、肩から下げたカメラを指して目の

前にあるビニール袋に入れろとしぐさで示す。袋に入れるとこんどはわきにある電熱器で封を

させられて無罪放免。

なーんだ、店内は撮影禁止。裸のカメラが疑われたわけだ。こうしたことは外国のスーパーで

はよくある。よそで買ったものを指定のバッグに入れさせられたこともある。

カメラ騒ぎで時間をとられてしまったので急いで買い物にもどる。手持ちのルーブルと値段を

比較するのだが時間がなく焦っているのでなかなかピッタリにはいかない。それでもチョコレ

ートとウォツカを買うと残りはわずかな小銭だけになった。

急いでバスにもどると最後だった。すると大師さまが「みんなを待たせてなにやってるの」

とどなるので、ひとの苦労も知らないで、とむかっ腹がたったので「遅れたのは二分じゃない

か」と怒鳴り返すと車内がシーンとなった。するとわがミハイル氏がニコニコしながら「二分

の遅刻。罰金はそのチョコレート」と言ったので車内に爆笑が起こって怒鳴り合いは無事おさ

まった。彼はなかなかの人物である。事情を話すと「そんなことあるかなー」

と首をかしげた。ガイドでも知らないことがある。それがなんでもありのロシアなのだ。

バスは、空港へむかって走り出した。


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