思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、点数は辛いようでも、雰囲気にたっぷり魅せられたようです。



露国赤毛布

6.食べて、観て、食べて、見る




昼食のレストランはエルミタージュ美術館から一キロほどはなれたところにあった。市街

地といってもここはヨーロッパ風の街並なので特別のにぎわいはない。なんの特徴もない

古びた建物のせまい入り口をはいるとそこは別世界。落ち着いた店内は壁画に彩られ、席

がつめこみでなかったら豪華な気分にひたれるところだ。パンとスープにはじまるコース

のメインはロシア餃子であった。これは五百円玉ほどの水餃子で洒落た壺状の陶器の器に

はいっている。

中華の餃子とまたちがった味でなかなか美味しかった。雰囲気にのまれオプションのシャ

ンパンを頼んでしまった。日本円で約600円だがとても日本ではこの値段では飲めない

ものだった。デザートのクレープとコーヒーも美味しい。どうせツアーの食事とばかにし

ていたが良い方に期待がうらぎられた。


食事をすませ、ツアールスコエ・セローへ。ここは帝政ロシアの皇族たちの夏の宮殿が集

まっている。なかでも有名なのが1724年エカテリーナ一世のために建てられたエカテリー

ナ宮殿である。写真やテレビでおなじみの姿で、紺碧の空のもと雪の上にくっきりと浮か

び上がる宮殿は、ああこれが本物かという感慨しかわかない。

コートや大きな荷物をクロークに預け靴の上にオーバーシューズをはき、駅の自動改札と

同じものを通って中央階段へ。二階へあがるとキンキラ金の大広間が見物客の度肝を抜く。

しかしヨーロッパの宮殿は、同じ様な装飾の部屋をならべた造りなので二部屋、三部屋と

見ていくうちにあきてしまう。

この宮殿は、第二次世界大戦の戦闘にまきこまれ、その大半を破壊されてしまった。展示

されている当時の写真をみると、よくもまあここまで修復したものだと感心してしまう反

面他の歴史ある宮殿とくらべると重厚感に欠ける。残されたスケッチや写真をもとに、で

きるだけ正確に修復したとのことだが、骨董好きのシャンさんの目には違和感がのこった。

たぶん細かい装飾のバランスがわるいのだろう。

有名な琥珀の間もおなじことで、ここは破壊をまぬがれたが琥珀の装飾をドイツ軍に略奪

されてしまい、その行方はいまだにわからない。このエピソードは推理小説の2冊や3冊

分の謎につつまれている。現在ドイツの賠償によりほぼ完全に復元されているが話題ほど

の感激はわかなかった。

エカテリーナ宮殿は、ところどころに残るオリジナルの調度品には見るべきものがあった

が全体的に本物の香りがうすい。宮殿内だけにかぎればヴェルサイユ宮殿を見た人はわざ

わざ行くこともないだろう。


夕方、夕方といっても夜7時ころまで明るい。市内にもどり運河にかかる橋を見て歩く。

サンクトペテルブルグは運河の街だ。橋は跳ね橋になっていて昔は夜遅くなると橋を上げ

てしまい島のようになった街区は出ることも入ることもできなくなる。現在は跳ね橋の形

を残すものは少ない。そういうわけで橋を観るといっても橋そのものの形はたいした違い

はないが橋の両端に残る獅子の像や騎馬像の彫刻がみごとでそれぞれに物語をもっている。

ココ通の書式では、多くの写真を形よく出せないので省かなければならないのが残念だ。


夕食は肉料理とのふれこみだったので、ビーフストロガノフを期待したのだがみごとにう

らぎられた。昼食のレストランとくらべると、よりレストランらしい入り口をはいると壁

は植物の壁画で埋められている。真っ白なテーブルクロスにむかって待つことしばし。サ

ラダポテト風の前菜とスープにつづいて出てきた肉はビーフストロガノフ風のものだった。

しかし添えられたジャガイモとともにみかけとちがって美味しい。デザートの小さなケー

キとコーヒーはふつう。やはり柳の下にドジョウは二匹いなかった。

食事をすませ、冬のツアーのみに組まれているイルミネーションドライブヘ。美しくライ

トアップされた古建築群をバスの窓からながめる。巨大な寺院や劇場の数々は昼間見るの

とちがった凄みや美しさをみせている。途中下車して眺めた月夜に浮かぶネバ川越しに見

るエルミタージュ美術館の建物はなによりも美しかった。


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