思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー、意外に近い観光地を思い出したようです。



四六の蝦蟇




わが家の玄関を出ると正面遠くに筑波山が見える。

急に四六の蝦蟇が見たくなった。カメラ片手にぶらぶらと出かけることにした。

つくばEXを使うと一時間少々で行かれる。金を気にしなければ渋谷へ出るのと同じくらい

だ。宿はサロンシャンのメンバーの実家が筑波にあるので心配ない。五百年くらい続く旧家

であるうえ、筑波山の何分の一かを持つ大地主なので地元の宿は鶴の一声で取ってもらえる。


数十年ぶりに訪れる筑波神社は、境内が整備されたのとまわりのホテルが立派になったくら

いであまり変わってなかった。

いざお賽銭をと小銭入れをあけると500円玉一個と一円玉一個しか入っていない。さてこ

まった。神様はおつりをくれないし、としばし躊躇したがせっかく贅沢な気分で出かけてき

たので500円玉を投じて手を合わせた。

普段神社に参拝しても手を合わせているとき頭の中は真っ白なのに、今日は歳のせいか家内

安全的なことが頭にうかぶ。

余命3か月を宣告された従兄。残り少なくなった気の置けない友人の一人の長患い快癒、な

どなどをタップリと500円分祈願した。


さて、四六の蝦蟇はいずこに。

まわりの土産物屋はガマガマガマの一色だ。がまの油に置物、どの店も変わり映えがしない。

そのなかの古そうな店に入ると、モダンなデザインの小さなガマの焼き物が目についた。財

布のなかにでも入れとくやつだ。安いので二つもとめると「あら、二つも買ってくれるの」

といいながら「これはご利益があるのよ。かえるかえると財布に入れておくとお金がふえて

返ってくる。来年は億万長者よ」と言っていかにもご利益がありそうな精工にできた小さな

ガマの焼き物をくれた。

これがきっかけで話がはずみ、昭和30年ころのこのあたりを知っているというと、急に喜

んで「特別見せてあげる。ほんものの四六の赤ガマがいるから」と店の奥へ案内してくれた。

そこにはガラスの水槽に入れられたがま蛙が一匹。たしかにふつうのガマよりは赤いが赤ガ

マとはいえない。手に取ったわけではないからもちろん講釈師の口上のように前足が四本、

後足が六本であるかどうかわからない。昔、家の池にいたガマと同じように見えたがオバサ

ンの真剣な顔を見ていたらご利益がある有り難いガマにみえてきた。

気持ちのいい出会いがきっと今日の祈願を成就してくれるだろう。ガマ様よろしく。


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