●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、夏の終わりに怪談話の主人公になりました。



目病み女

朝、顔を洗って鏡を見たら右目が真っ赤に充血していた。

あーやっぱり、と思う。心当たりがあったのだ。

お盆休み前、夫がスポーツクラブのプールでうつったらしく、結膜炎になり、同時に

38・2度という高熱が出て1週間寝込んでいたから。

赤い目というものは鬼気迫るもので、さながらド迫力の赤目お化けで、夏の定番怪談話

に出てくるようであった。

「おー、こわっ!」と思いながら、私は絶対うつるまいと気をつけていたのに2週間後、

ついに結膜炎がうつってしまったのだ。ここのところ、暑くてバテ気味なのに旅行やら

太極拳の講習やらといろいろスケジュールいれちゃったしなあ〜と反省しきり。

すぐに眼科へ行った。目の検査のあと、とっつきにくい感じの女医さんが

「風邪をひいていませんか?」と聞く。

「朝熱っぽいので測ったら37度ありました」と答えると、その女医さんはやおら自分

にマスクをつけ、ちょっと咎めるように説明する。それによると、これはアデノウイル

スによる結膜炎で特効薬はないとのこと、抗生物質の点眼薬をさして、家に居て体を休

めるようにということだった。

今年新しく買ったサングラスをかけ粋がっていた私は、夏のファッションとは裏腹にト

ボトボと家に帰った。

2日後には、赤目は左目にも及び、両目が開きにくいほどひどくなり、これは只事では

ないとうろたえた。

昔から「目病み女に風邪ひき男」という言葉があって、イイ女とイイ男の代表のように

言われているが、いくらなんでも両目じゃねえ・・・

お岩さんも片目だから怖いなかにも色っぽさもあるのであって、両方塞がっては三味線

持って歌い歩く瞽女である。それにうつるとあっては外にも出られない。

感染させた張本人の夫はもうけろっとしていて、「二目と見られないその顔じゃ、ぞっ

として節電対策十分だ」と自分のことは棚にあげて、悪態をつくのであった。


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