思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、つい育ちの良さが出てしまいました。



結局高くついた

ネジ一本に悩んだメガネの後日談。

ますます目が悪くなってきた。ショーウインドウなど2〜3メートルの距離が見えづらい。

なにがこまるといって商品の値札が読めないのがこまる。安いとおもったら一桁ちがって

いたなんてことがめずらしくない。これ以上店頭ではじをかくのもいやなので大決心をし

てネジを直すことにした。


行った先は近所の眼鏡チェーン店。おそるおそる相談するといとも気安く受けてくれた。

男女を問わず店員というものは、礼儀正しく、あいそがよく、商品知識が豊富でよけいな

おしつけがないのがよい。この店員はその条件にピッタリだった。

「同じネジがあればすぐ直ります。すこしくらい色がちがってもいいですか」といいなが

ら奥にひっこみ、しばらくすると「同じのがありました」といってもどってきた。

直ったメガネをかけると「だいぶお使いですね。フレームの調整をしましょう」と丁寧に

調整をしてくれた。あ、ネジだけでは金がとれない、これで稼ぐのかと不純なことを考え

ながら、あらためてかけてみると見え方がだいぶちがう。

そのさわやかな応対に気をよくしてしまい、「これもだいぶ度があわなくなってきた感じ

がする。新しくしたほうがいいかな」とよけいなことをいうと「検眼は無料ですからおや

りになりますか」というので頼んだ。

ものの見え方の表現は人さまざまである。検眼のとき商売柄つい専門用語を使ってしまう。

店によってはキョトンとされたりいやな顔をされたりするので最初に仕事をあかすことに

している。言葉というものは共通の言語で話さないととんだ行き違いを生じることがある。

この店員は素直にうけいれてくれた。人とのつきあいもおなじで、言葉がうまく通じたと

きは気持ちがいい。

結果はほんの少しだが度が進んでいた。

彼いわく「すこし度が進んでいますが、いまのメガネで十分です」と。

客がその気になっているのにおしつけない。この言い方に、またまいってしまった。


このメガネはすこし見えにくい距離がある。それに最近晴れた日はまぶしくてサングラス

がかかせなくなっている。そこで前に使ったことがある紫外線で色が変わるレンズで新し

く作るといくらぐらいかかるかと聞くと「ちょっとお高くなりますが、いろいろあります」

と値段表をみせてくれた。見ると手の届く値段のものがある。

彼のさわやかさにひかれて、「まだお使いになれるのによろしいんですか」の声も聞かず

に、それをたのんでしまった。


家に帰って考えた。ネジ一本なら高いことをいっても500円くらいだったろう。それを

つい気をよくしてン万円の出費。もったいなかったかな…。

礼儀正しく、あいそがよく、商品知識が豊富でよけいなおしつけがない店員は高くつく。

と、気がついた。


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