思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
さすがのシャンせんせいは、記念を道具と表現にまとめました。



ココアのレンズ





2007年10月31日、江戸川橋のココアスタジオを閉鎖して満5年になる。

ココアスタジオの構成は、グラフィツクデザイナー、イラストレータ、ミュージシャン、

エディター、フォトグラファーとカタカナ言葉で書くとおどろおどろしいほどの才能集団

であった。

その建物は今でも健在だ。本来なら第二の「ときわ荘」と呼ばれても不思議はないのだが、

おしむらくはその住人がそろって才能を隠し、遠慮深く過ごしたために世間に知られるこ

とがなかった。


小さな事務所といってもいざ閉鎖するとなるとかなりの荷物がでる。本来ならばガラクタ

と書くべきなのだが住人の名誉のために荷物と書く。

大半のガラクタ、いや荷物は田島代表が埼玉の事務所へもっていくことになったが、それ

でもかなりのものが残る。産業廃棄物として処分するには万単位の金が必要だ。

酒には金を惜しまないくせにほかのことには舌を出すのも嫌だ、という田島代表の発案で

全てを解体して家庭不燃ゴミとして処分することにした。

その中に一台の年代物のコピー機があった。毎回メンテナンスサービスのお兄ちゃんがな

すすべもなく帰るほどの年代物である。


コピー機の解体は、機械に弱い田島代表に代わって引き受けた。

解体は不燃ごみの収集日を計算して、計算して、というのは家庭ごみであるから一度に大

量のものを出すわけにはいかない。そこで目立たないようにする回数を計算して一か月半

の予定を組んだ。

コピー機はミノルタ製。日本の物造りがまだしっかりしている時代の製品なだけに解体し

てみると、ほれぼれするような造りが随所にみられた。すべてゴミではもったいないので、

コピー機の心臓部のひとつであるレンズを記念に残しておいた。


コピー機のレンズは、その性質上広角であり、解像力、収差補正にすぐれている。後日、

このレンズを放っておく手はないとカメラに着ける加工をした。

加工をすませ写してみると、ピントは上々の35ミリ判で21ミリ相当の超広角レンズに

なった。残念ながら四隅が欠けるが真ん中を使えばよい。

「世間並にはちょっと欠ける」というココアスタジオの信条そのままのレンズである。


上段の写真は、07年夏、加工直後に35ミリ判で撮影した復元前の東京駅。

下段は、先月復元工事が終わった東京駅のドーム。今回は、APS-Cサイズのデジカメで写

した。画角が狭くなるので四隅も欠けない。


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