●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
哀しみと愛おしさの現実がおとぎ話になった。



おとぎ話シリーズ

涙の日本

東日本大地震の被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます

“昔、昔そのまた昔の大昔、国を造る神様が涙をぽとりとお落としになりました。それが北

海道。今度はぽたぽたと涙をお落としになり本州ができました。再びぽとり、ぽとりとお落

としになって四国、九州、沖縄ができたのでした。”


あの巨大地震が東北地方を襲った直後、家にいた私は大きな揺れの中ですぐテレビをつけた。

絶叫に近いアナウンサーの声とともに放送局内が猛烈に揺れて棚や書類が崩れていく様子が

映し出された。

やがて画面は変わり、ヘリコプターから映された海の状況。忘れもしないあの巨大津波の恐

怖の映像である。

沖のほうから白い線となった波がひたひたと近づいたかと思うと、海岸から陸地へ。まるで

意志ある生き物のようにたちまち家を呑み込み、田畑を呑み込んでいった。

その勢いは信じられないほど強く、渦を巻き、飛沫をあげ怒涛となって押し寄せる。

それはS Fの映像ではないかと思うほど恐ろしい信じられない光景だった。

だが、現実に起こったことなのだ。

アナウンサーが「再び津波がきます。海岸には絶対近づかないでください」と叫ぶように繰

り返す。

テレビの右下の小さな画面には日本列島のすべての海岸に津波警報がだされ、段階を示す赤

やオレンジや黄色が点滅していた。

それは警報が解除されるまで続いた。

テレビにくぎづけになって見続ける私は今までこんなに長く日本列島を見つめたことはなか

った。

改めて、ああ、日本列島ってなんと華奢にできてるんだろう、と思った。大陸のなかにどか

んとある国とはあきらかに違う。

いくつかの島が集まり頼りなげに弓なりに曲がって存在する日本。

こんなに繊細で華奢で小さな日本の中で農業が、工業が、漁業が、芸術が栄えていたのかと

思うと愛おしい。

いつだって、日本は精いっぱい頑張って生きてきたのだ。

そして、これからも・・・

そう、海に囲まれ、たくさんの海岸線が入り組んだ美しい日本は、冒頭のように神さまの涙

でできた島国なのだという想像が浮かんだのだった。



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