思いつくまま、気の向くまま 文と写真は上一朝(しゃんかずとも)
シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせいには、ひもののひあいも味わえるようです。
干 物
生干しと呼ぶには早いアジの開きが目についた。
その日の魚は買ってしまったが、美味そうなので買うことにした。
「これ、干せば持つかしら」と老妻が魚屋のオバちゃんに聞くと。
「そう、一日干すとうんと美味しくなるよ。洗濯バサミではさんでさ」
「夜干しても大丈夫?」
「大丈夫だけど、猫ちゃんいない?」
「いないけど、心配なのはカラスだけ」
「………」
わが家はマンションなので猫の心配はないが隣の団地がカラスの集会所になっ
ている。
短いひもの両端に洗濯バサミをつけてベランダのテーブルのかげに器用にぶら
さげた。
「これならカラスに見つからないでしょう」
「バカめ、カラスは見えなくても臭いでくるぞ」と言いかけたが口をつぐんだ。
「アジが寒くて可哀そう」女はへんなことを考えるものだ。
あくる日の夕方。
「どう、いい色に仕上がったでしょう。これなら高島屋の干物に負けないわ」
とわざわざ干物をぶらさげて見せにきた。うすい飴色に仕上がったアジはいか
にも美味そうだった。
その日の夕膳にのぼったアジの味はいつもの高島屋に負けていなかった。
一昼夜寒風に晒された “可哀そう”なアジを食べながら思ったことは…。
アジも人も苦労をすると味がでるものだ。