●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
セーターの呪いはゆっくりやる方がいい、せーたーことをしそんじる、つって。



おとぎ話シリーズ

呪いのセーター

♪着てはもらえぬセーターを涙こらえて編んでます♪

誰かがカラオケで、都はるみの“北の宿から“を歌っている。

なんと切ない歌だろう。着てはもらえないとわかっているセーターを編んでいるなんて

なんとも哀しい。


ある男が恋人から手編みのセーターを贈られた。

ざっくりとした風合いで色も洒落ていて男は大いに気に入った。

着ていると彼女にくるまれているように暖かい。

男は“幸せのセーター”と呼んだ。

ところが不思議なことに、そのうち洗って縮んだわけでもないのにだんだんそのセータ

ーが窮屈になっていったのである。着ているとぎゅうぎゅう締め付けられているように

身も心も痛くなってくる。

なぜだろう?

男は女が手編みのセーターを編んでいる姿を想像した。

愛情をもって、いや、もっとつきつめていえば一針一針女の執念を込めて編んでいる姿

を・・・

このセーターには男の気持ちを独占しようという執念が込められている・・・

その執念は完成するまでかなりの手間ひまがかかるその間、ずーっと続いている・・・

そう考えたら、気軽に着ることができなくなった。

男は次第に圧迫感を感じるようになったのだ。

そして、手編みのセーターを贈られるという意味深な関係を常に身にまとわりつかせて

いるのがうっとうしくなった。

セーターに束縛され怖い。ついに男はその手編みのセーターを“呪いのセーター”と呼

ぶようになった。

やがてその男は女と別れる。


手編みのセーターには呪いを生む心理的なメカニズムがあるようだ。恋人に贈ると、ほ

どなく関係は壊れるというジンクスとなって、編み物愛好者の間では「セーターの呪い」

と呼ばれて恐れられている。



戻る