●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん一気にコメントした後で心配してます。



夏の終わりに (1)

今年の夏はやっぱり“震災後の夏”だった。

東北大震災の復興も遅々として進まず、福島原発も収束もままならず、政治は混乱の

極みだし、常に頭の中は非常事態宣言がなされているようで、なにかゆっくりバカン

スというのには程遠い気分なのだ。

それでも私たちは8月上旬の暑さ真っ盛りの時期に千葉鴨川へ小さな旅行をした。

帰りのアクアライン、海ほたるでのこと。

高いばかりでまずい食事したあと、潮風に吹かれぐるり一面の海をみようと最上階の

デッキのようなところへ行ったのだった。

雲ひとつない真っ青な空を見、紺色のおだやかな海を見、強烈な太陽の光をダイレク

トに浴びて、夏という時間を感じていた。

そして、目を転じるとその視界のなかに産地直送と書かれた旗のひらめきと白いテン

トがとびこんできた。

景色は後回し。主婦感覚全開となった私は早速近づいていくと、赤い法被をきたお兄

さんが盛んに呼び込みをしている。

「いらっしゃい!群馬から今届いたばかりの野菜だよ!」

つられて、鼻息も荒く私はナスやらトマトやら米粉せんべいまでたくさん買ってしま

った。両手に荷物を下げてテントから離れようとすると、

「すみません、新聞社の者ですが、コメントいただけますか?」

腕に「報道」という腕章をつけ、メモを片手に若い男性がすがるような目で私を見つ

める。途端に昔の自分をみたような気がした。私もこうやって見知らぬ人に声をかけ

てコメントをもらっていたっけ。そのときのドキドキ感、思うようなコメントもらえ

るかどうかの不安感、わかるなあ。

この人はきっと風評被害に悩む地方の野菜を応援している記事を書きたいのだろう、

と私は一人合点して、

「産直で新鮮な野菜が手に入るのはありがたいですね。こうして売られているものは

安全だと信じていますから」

なんて適当なことをいった。

それから、何を買ったのかとか、年齢まで聞かれたのにはちょっと憮然としたのだが、

後からよく考えてみたら、群馬って風評被害あったかしら、と考え、勇み足だったの

かも、と恥ずかしく思ったのだった。


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