8/29のしゅちょう             文は田島薫

(ひとり旅について)

昔、私がバイクでささやかなひとり旅を続けてた時期のことを、どっかで書いたんだ

けど、似た気持ちのエッセーをたまたま読んだんで、少しうれしくなり、ご紹介。

昨年の晩秋に亡くなった絵本作家でもある才能豊かな佐野洋子さんのショートエッセ

ーの中のひとつを以下要約(実物の名文の方が味わい深いんで恐縮ですが)。


自分は旅は好きではない、行く前の荷物の準備やら宿の手配やらがわずらわしいから、

って、そういったもの抜きで、すーっと、知らない夜原野を走る汽車に乗ってたり、

バルコニーから海に沈む太陽を見てるなら旅が好き、だって。

旅にこがれてた時があった、で、それは自分が子育て中でとてもそんなことをする余

裕のない時で、毎日5時に子供を保育園に迎えに行かなくちゃならなかった、って。

でも、家が5分間中央高速を走るところにあり、毎日その日没時の5分間は、旅をして

いた、と、銀縁のくすんだ雲と青暗い空の向こうに自分の知らない土地が果てしなく

続いているのだ、と。

今行きたい旅はひとりでなんの計画もなくなんの用意もなく自動車で出かける旅だ、

って。ぼーっと一日中海見たり、途中の田舎道でお百姓さんに、このへんに宿はない

か、などとたづね、ないね〜、などと言われ、行き当たりばったりの宿に泊まる旅。

ひとりぼっちで、淋しくてしょうがない旅、すぐにでもあの親しい人たちに会いたい

って思う気持ちを確認できる旅、だって。


なんだか最近の若者は、いつも人とつるんでいるか、携帯メールをひっきりなしにや

ってないと不安をおぼえるような傾向がありそうなんだけど、ひとりでじっくり淋し

さを味わう価値も忘れないで欲しいもんだ、って同志を得て感じたのだ。




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