●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
ともどきさんは身近な野菜からも人生を学びます。



夏野菜

私は夏野菜が好きである。

きゅうり、茄子、とうもろこし、ピーマン、枝豆、オクラなど夏野菜は皆個性的な形と色

を持っている。

しげしげと眺めては、よくぞこの形にいきついたものよ、とその神秘さに感心してしまう。

料理といっても冬野菜と違ってあまり凝ったことはせず、生か茹でたりするぐらいで、野

菜本来の味がひきだせるのも魅力だ。

とうもろこしや枝豆などは味付けが塩だけと単純明快なのもいい。

そのかわり茹で加減と塩加減が難しい。少し固めに茹でて、すぐ上からぱらぱらと塩をふ

る。時間が経つと少し柔らかになり塩味が濃くなることも計算に入れなければならない。

きゅうりや茄子の塩もみの場合も塩加減としんなりさせる時間が歯ざわりに関係するから

慎重にしなければならない。

夏野菜はなかなか気難しいのである。

親密な間柄になるためには相手の鮮度やゴキゲンを見極めねばならない。

夏の暑さにかまけて手抜きをしたり、なめてかかってはいけない。

相手のすべてを知り尽くすのではなく、塩加減と調理の時間を味方につけて相手の一番い

いところだけをひきだして良いつきあいを続けていこうと私はひそかに思う。

適当な距離感をおくのも賞味が長続きするコツのようだ。

相手の放つ個性に感嘆しながら自分の個性を確認する、そんなことを、夏野菜は教えてく

れる。


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