●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、ベトナムへ行ってきました。その土産話シリーズの4。



ホーチミンの旅(4)

泥の川

ベトナムの10月は雨季である。雨季といっても日本の梅雨のようにしとしとと雨が降る

わけではない。ざっと降ったかと思うと曇りベースでときどき薄日が射したりする。陽が

射すとたちまち気温は32〜3度にもなる。

ホーチミン市内から車で約1時間半南下して、メコン川デルタにある港町、ミトーへ行き、

メコン川クルーズに参加した。

船は屋根が一応ついているが15〜6人ほどが乗れる古びた木造船で、私の座った座席の

すぐ目の前で、船長がなんと腰掛にあぐらをかいて操縦していた。仏教国らしくお釈迦さ

まが印刷された絵を窓枠に貼ってあるのが面白い。さしずめ交通安全のお守りというとこ

ろだろうか。

メコン川は、川幅広く流れているようにも見えず、水は茶色に濁っていてまさに泥の川の

ようである。肥沃な岸には熱帯特有の木が被い茂り緑が濃い。

途中、タイソン島にて下船、観光。

島は蜂蜜作りや果樹園・観光で生計を立てているらしいが、川に潜れば魚が獲れるし、果

物、野菜は豊富だし、衣服は夏物があれば事足りるので、暮らしやすそう。

木が生い茂るジャングルの中は鬱蒼としてじめっとした感じで、点在する椰子葺きの家か

らはにわとりののどかな鳴き声が聞こえたり、所々に小さな掘っ立て小屋に刺繍を施した

バッグをたくさん並べ立て、日本人観光客に「2つで千円」と声をかける女性がいたりす

る。(買い物をするのは殆ど日本人だとか)途中休憩所でマンゴー、パイナップル、ハイ

チ、パパイア等の多くの果物の試食もできて、島の中のそぞろ歩きは大満足だった。

その後、前と後ろに漕ぎ手が座り、中4人が乗客の不安定な6人乗りのボートに乗って、

島の中の川を下る。(上る?)椰子やマングローブの茂るジャングルの中の狭い川だがや

はり流れのない泥の川だった。これは山のないデルタ地帯で高低差というものがないから

だろうか。

二人の漕ぎ手は中年のおばさん、たくましい体で黙々とオールを動かしている。これが日

本の舟下りとかイタリアのゴンドラとかになると歌の一つもでるのだろうが、おばさんた

ちのまったくサービスとか商売っ気とか観光擦れのなさが、静かで迫ってくるようなジャ

ングルの不気味な雰囲気を壊さずとても良かった。

寄り道が終わって夜となり、またまた、あぐらをかいて操縦する船長の舟に乗っての帰り

道、マングローブに群がる無数の蛍を見ることができた。闇の中に小さく点滅する夥しい

光の群れ。神秘的で一度見たら忘れられない光景だった。


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