●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさんは「オシャレな家族」を見たようです。



シリーズ 生き物をダシにして

靴を履く犬

「おっ!」

「うそっ!」

わたしたちは同時に声をあげた。

場所は横浜山下公園。時は土曜日の昼下がり。晴れ渡った空に海・船・ベイブリッジと

いった港の風景に潮風が吹きわたり心地よい。カップルや家族連れなど人出も多く、芝

生に寝転ぶ人、散歩する人、写真を撮る人など思い思いに過ごしている。

そんなときだった、驚きの声を上げたのは。

目の前をなんと靴を履いた犬が横切ったのである。

正確にいえば、人間の二人分のスニーカーと犬の四つ足分の編み上げ靴が足並み揃えた

ように進んでいくのである。

もっと正確にいえば、洒落た中年のカップルが赤いチョッキを着せ靴を履かせた犬を散

歩させていたのだ。いやに背の高くなった犬は黒白模様の細身の大型犬で種類はわから

ない。人間の方の素性はもっとわからない。

二人と一匹はスッと背筋を伸ばし、まるでそこだけスポットライトを浴びたように目立

ち、ファッションショーのように歩いてカッコよかった。

私は靴を履いた犬を見るのは初めて。小さなよく目立つ四つの靴が交互に動いているの

を見ると、頭は混乱し目がチカチカした。

「あれロボット犬じゃないでしょうね」

「まさか」

「なんのために靴を履くの?」

「今年は猛暑でアスファルトの道が熱いからさ」

「じゃ、暑いのにチョッキはなんなのよ」

「ファッションだろう。」

「ふふ、そのうち犬も靴擦れや外反母趾ができたりして…」

「だな」

わたしたちはこんな会話をした。

猫派の私には理解できない。それからふと、テレビでみた裸足で遊ぶアフリカの難民の

子供の姿を思い出した。



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