●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさんは小さな生き物に感情移入したようです。
シリーズ 生き物をダシにして
運命のいたずら
海外旅行のとき成田空港を利用する場合、その往復は決まってYCATのリムジンバスを利
用する。バスは道路事情によって時間の誤差がでるのが心配だが今まで遅れたことはない
し、横浜駅から直行、空港の目の前で止まり楽なのである。
韓国へ行った帰りのこと。例によって成田空港からバスに乗りこみ、後はノンストップで
一路横浜へ帰るばかりだった。旅の終わりのホッとした気分と疲れで、さて座席を倒し一
眠りしようかと目を瞑った。
そのときブーンという羽音が聞こえた。蜂よりもハエよりも小さいアブのようなものだっ
た。しばらく出口を探して乗客の頭上を飛び回っていたが、どうやら閉じ込められたのに
気がついたらしい。観念したのか私の横の窓ガラスにじっと張り付いた。
私は薄目を開けて運の悪いアブをしばらく見ながらその行く末を考えた。
千葉の農村地帯から突然緑のない都会へ。アブはこの変化にどう対応するのだろうか。何
が起こったのか理解できるのだろうか。パニックにならないだろうか。
いやいやそんなデリケートな神経は持ち合わせていないかもしれない。本能に従うまでだ
ろう。
そういう人間だってアブのように思いもかけない運命にでっくわすことがある。まったく
の偶然が作用して何が起こるかわからないのが人生だ。そんなときうろたえてしまうのか、
冷静に対処できるか人の技量というものだろう。
旅も何かの偶然を期待してする行為だし、偶然があるから人生楽しい。わかりきったこと
しか起こらない人生なんて、退屈でつまらない。
旅の後の興奮が私の思考をどんどん飛躍させていた。