●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、鰯のライフスタイルに同情したようです。
シリーズ 生き物をダシにして
鰯
鰯は常に動いていないと死んでしまうんだって。
そのことを見るともなく見ていたテレビで知った。それは司会者がゲストの著名な女性
脚本家(たぶん)と男性弁護士にいろいろ聞きだすような番組だった。
司会者が「自分のことを漢字一字で表すとすればどんな字ですか」と聞くと、
脚本家は「『後』ですね。私っていつも後ろ向きに考えますから」
弁護士は「『鰯』です。鰯っていつも動いていないと死ぬっていうじゃないですか。私
も活動してないとダメなんです」という。
私は「へえ〜」と思った。
「後ろ向き」と言い切った女性には私も似たようなものなのでおおいに共感したが、
「鰯」と答えた弁護士には、なんか可哀相…と思ったのだ。
生き物世界にもよく動くタイプと動かないタイプがあるように人間社会にも活動家と非
活動家あり、考え事をするときさえも部屋を熊のように動き回るタイプとじっと机上で
沈思黙考タイプがあるようだ。
私は断然後者で、毎日張り切って活動するタイプじゃなくて、前世はナマケモノではな
いかと思うくらい家でグタグタしているのが好きなのだ。極端な話、気ままな眠り猫が
理想的。
一日が終わって、すべての事を済ませ、柔らかな布団に入る瞬間がたまらない。これ以
上安定した体勢はないとばかりにのびのびと横になり、すぐ寝るのはもったいないので
音楽を聴いたり、本を読んだり、ラジオを聴いたりするのがしあわせ。さまざまな思考
が生まれ、ココア通信のアイデアも閃いたりするのもこんなときなのだ。
鰯なんてとんでもない。水底にうずくまりエサを取るときだけパクっとやり、あとはま
たじっと動かない、そんな横着な魚でいい。