●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさんは、感受性を刺激する花について書いてます。



シリーズ 生き物をダシにして

酔芙蓉の輪

酔芙蓉という植物をご存知だろうか。

芙蓉の仲間で、朝、蕾がほっこり開いたときは真っ白な花びらで、夕方になるとまるで

お酒を飲んで酔ったように花びらが赤くなることから、こんな粋な名前がつけられた。

私が酔芙蓉を知ったのは、高橋治著「風の盆恋歌」という本にでてきたからだった。

それは風の盆といわれるおわら節の盆踊りにからませた

恋愛小説で、最後の方に男が女の家へ訪ねていくと、家の脇に酔芙蓉がひっそりと咲い

ていたというくだりがあり、私の想像をかきたてたのであった。

それからしばらくして同窓会の旅行があり、夜の宴会でIさんが風の盆恋歌を歌い、Kさ

んがその歌に合わせておわら節を踊った。

浴衣に黒帯をお太鼓に締め、編笠をつけた本格的衣装でなかなか風情があり、「眼福!

眼福!」とみんなからやんやの喝采を受けた。

それが縁で、後日同窓生のSさんが自宅に咲いた酔芙蓉の苗をIさんとKさんに届けた。

酔芙蓉のうわさは小さな波紋のように同窓生の間で広まり、見てみたいという人にはマ

メなSさんが苗木を送ったりしたようだ。

私は不覚にもネットや写真で見たけれど実物は見ていなかった。時間とともに白から赤

へ変化する花びらを、そしてドラマチックに変化するその過程をこの目でみたいと思っ

た。それは自ら動かない生物である植物なのに動く生物のように生きている証をまざま

ざとに見せてくれるだろう。

そして・・・先日。

朗読会があり、Iさんの家へ立ち寄ってあこがれの酔芙蓉にご対面した。

目の当たりにした酔芙蓉は盛りを過ぎたとはいえ白い花とすでに赤く色づいた花をつけ

ていた。

短時間だったので赤く色変わりする過程はみられなかったが、白い蕾や赤くなりかけた

花やまだ色づかない真っ白に開いた花などがあって、やはり人の気持ちを昂ぶらせる魅

力に溢れていた。

私は、酔芙蓉がなんらかの形で同窓生の思い出のなかに生きる続けることになにか不思

議な縁とパワーを感じたのだった。



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