思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
思考停止人たちを見てさすがのシャンせんせいも目が点になってます。



拝啓 お役所仕事殿

貴殿 益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。

さて 先日TVで、政府の貧困対策の一環として内閣府参与に任命された、元、年越し派遣村

村長湯浅誠氏の100日間の活動を見ました。

当惑げに湯浅氏が辞令に見入る姿を見てうれしくなりました。お家流で水茎の跡も麗しく書

かれた辞令。今どきですからワープロで打って内閣の印が押してあるものかと思ったら、わ

が家のご先祖様が明治政府から拝受した辞令と寸法、書式、書体と寸分変わらぬものでした。

100年にわたり仕来りを守るという仕事ぶりに敬服いたします。しかし、これ一枚書くた

めの人件費はいかほどのものでしょう。


厚生労働省政務官室でまず始めに湯浅氏のとりかかったことは、仕事や生活に困窮している

人達の利便性を図るために窓口の一本化、ワンポイントサービスの実行です。ところが、こ

れらの窓口はいくつかの役所に別れています。縦割り行政というやつです。

縦割り行政、いいですね。このシステムは権力の集中を防ぎいわゆる悪代官を作りにくくし

ています。どこかの政党とは大違いです。また、事案をたらいまわしにすることで、多くの

役所の目にふれ、軽率な判断をふせぎます。


早速、問題が起きました。ハローワークというところは、国ではなく自治体の管理下にある

のです。「では、自治体にお願いに行きましょう」という湯浅氏に厚労省の課長が「格が違

います」といいました。一瞬耳をうたがいました。“湯浅ごときが”と聞こえたのでした。

実態は厚労省の課長と自治体の首長とでは首長の方が偉いのです。公務ではやたらに口がき

けません。これは大臣を通してなんとかなりました。

しかし、現場は思うように動いてくれません。もたもたしているうちに年末です。このまま

では、また年越し派遣村です。大見えを切った政府はまさか民間にまかせるわけにはいきま

せん。国営年越し派遣村を作ることにしました。どこか空いた施設がないかな〜と探してい

たら、代々木にある青少年センターがよかろうということになりました。

ところがここは文部科学省の管轄下なので文科省にお伺いをたてましたところ、厨房施設の

改装があるのでまかりならん。との御返事です。これ、お役所特有の嫌がらせです。食事は

弁当でとなお押すと、こんどは人がいないので暖房が使えないとの御返事です。これには湯

浅氏苦笑して、「暖房はボイラーがするのでしょう」とつぶやきますが、これも嫌がらせで

す。年末年始の休暇にボイラーマンを出勤させれば余分な手当てをださなければなりません。

文科省は余計な予算を使いたくないのです。

これらのことをみていると現内閣が口先ばかりの集団であることがわかります。政府がやる

ことですから、各大臣の意識が共有されていなければなりません。共通意識を持たぬ指導力

のない大臣の下で部下はやりたい放題です。これも遅まきながら大臣折衝で解決しました。


すったもんだの末入居がはじまったセンター内にワンポイントサービスの窓口を設けました

がさっぱり人があつまりません。そうでしょう広報活動がまったくなされていないのです。

そこで湯浅氏、館内放送で呼び掛けようとしますが、センター側では、ここには放送をする

決裁権がないと言い出します。館長だか、センター長だか知りませんが館内放送ひとつでき

ない人間が高給を食んでいるのです。見事な仕事ぶりです。これもなんとか解決しました。

こんどは集まった人たちから得たデータに必要なことが欠けています。そうでしょう、用紙

に書かれた項目にチェツクを入れるだけで踏み込んだ質問をしていないのです。これにはさ

すがの湯浅氏も頭にきて職員を引き連れて部屋をまわりアンケートのとりかたを指導します。

これでどうやら必要なデータがあつまりましたが、それが活かされたかというと結果はみな

さんご存じのとおりです。


今月3日、湯浅氏は辞職願を提出しました。表向きは、当面の自分の仕事は終わったという

ことですが、こんな手間のかかる仕事のやりかたにかかわっていたのでは、自分の仕事がで

きない。というのが本音でしょう。

貴殿の勝利です。公務員制度改革と大見えを切っている政府ですが、彼らは貴殿の仕事ぶり

をまったく認識しておりません。どうか安心して旧態の仕事にお励みください。

ただし、現政権の唯一の取柄、情報公開にはお気をつけください。貴殿の仕事ぶりは国民の

目に晒され、そのうち怒りを買うことになるでしょう。



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