思いつくまま、気の向くまま 文は上一朝(しゃんかずとも)
シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせいめずらしく早朝からごきげんです。
ブーブーぜらよ
2010年6月25日午前3時1分。さわやかな目覚めであった。
コーヒーを入れていると目覚まし時計が鳴り、普段は目覚ましくらいでは起きないご都合サ
ポーターも起きてきた。隣のマンションも一つ、二つ、三つと五つの窓に灯りがついた。
わが家の時計では3時31分、日本対デンマークの一次リーグ最終戦が始まった。
初めのうちは日本勢にもたつきがみられ「あーやっぱりだめか」「本田なんか口ほどもない」
と言っていた17分、本田のみごとなフリーキックで一点先取。
こうなるとわが老老サポーターは典型的な日本人になる。「やっぱり本田はすごい」「なん
とかなるかもね〜」と急に元気がでてくる。続いて30分。こんどはヤットさんの芸術的フ
リーキックで追加点。ヤットさんのファンであるご都合サポーターは狂喜乱舞といいたいと
ころだが、集合住宅の悲しさ大声を出して喜ぶわけにはいかない。まあ、お隣さんを叩き起
こさないていどの喜びでがまんしているうちに前半終了。
「さあ、これでデンマークも怒ったぞ」「オランダ×カメルーンはどうなった」なんて言っ
ているうちに後半戦開始。36分川島の好セーブながらこぼれ球を蹴こまれて一点を返され
る。あと、9分少々。こうなると残り時間が少なくてリードしているときに使うわが家の常
用句、「ボールを懐に入れて逃げろ!」の連発だ。ボールを回して時間稼ぎをしろ、ではな
く懐に仕舞って逃げてしまえというわけだ。ルールもなにもあったものではない。
2対1で逃げ切れるかとヒヤヒヤしながら観ている42分。本田のパスを受けた岡崎がコロ
コロと一点追加。これで安心。長いAdditionaltimeも大して心配せずに、5時22分試合終了。
今回がワールドカップでの審判は初めてという南アの主審が神々しく見えた。
いつもなら「あー疲れた、寝よう」というご都合サポーターが、ヤットさんの喜びを発散で
きなかったせいか、近くのファミレスで祝杯をあげようという。監督、選手のインタビュー
を見終わって外にでると6時半だというのにファミレスに通じる広い並木道は散歩やジョギ
ングをする人でにぎわっていた。「この人達も見たかしら」と、会う人すべてをサポーター
に見立てながらファミレスに入るといずれも70代の夫婦が四組いた。
耳をすますとどの夫婦もサッカーの話しをしている。中のひと組は常連らしく、従業員相手
に奥さんが「私しか起きないの。息子も起きないし、お父さんも起きない。みんな私が起こ
したのよ」と、目の前でバツが悪そうにうなだれているご亭主を前に興奮してまくしたてて
いた。いい家族だな〜。
女というものは、周りが騒げば私もさわぐ、とご都合サポーターになりやすいのだろう。こ
れが、関東地区早朝視聴率40.9%の正体だ。そういえば他の夫婦も奥さんのほうが的確
な話しをしていた。
いっこうに眠くならないので、近所に住む甥っ子をたたき起こしてやろうか、というと「お
よしなさい。また、伯父さん気が狂ったといわれるから」と止められたので、喜びをかみし
めながらすごすごと家路についた。
なんともブブゼラの音が心地よく耳に響いた早朝でした。