思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいの「ぼけのたわごと」、タイトル変えました。
今回のシャン先生、昨今の世間がする伝統文化の見方を嘆いてます。


鳶口という金具…            

新聞のTV欄を見ていたら、ちょうど出初式の中継をやっているのでスィッチを入れた。

梯子乗りが始まるところだった。アナウンサーの梯子についての説明まではよかったが、

「鳶口という金具で…」には、ドヒャー!開いた口がふさがらなかった。

たしかに鉄でできているから金具には違いないが、今でも消防で使っている。

“鳶口も遠くなりにけりおらが春”である。続く画面は梯子乗りをするとび職の説明的

なアップが続き、画面下には「遠見」とか「一本八艘」という型の名の字幕が出る。こ

れでは博物館ではないか。粋もいなせもあったものではない。世の中の変わりように唖

然としてスィッチを切った。


最近、10代〜20代の若者のあいだに日本の伝統文化に興味をもつ人がふえている。

しかし、一部を除いて彼らは伝統文化をマニュアルで学ぶことしかできなくなってしま

った。本来伝統文化というものは肌で学ぶものである。それがマニュアルで学ぶとどう

なるか。マニュアルというものは、点は教えてくれるが点と点をつなぐ線は教えてくれ

ない。また、マニュアルはそれを書く人によって解釈が異なる。それらによって作られ

たものは原典と似て非なるものになりやすい。

では、なぜそうなってしまったのか。それは、若者の両親や祖父母の年代が温故知新な

らぬ、棄故知新をやってきたからだ。彼らは敗戦このかた日本文化を否定し、欧米文化

崇拝に走ったが、ジャズ、ロック、ファッションとどれをとっても日本式何々であって

本物には及ばなかった。それに飽き足らなくなった自分達の子や孫がまさか日本文化を

希求するようになるとは思わなかったろう。


どこの国にも固有の文化があり、それを大切にしている。

友人や身内に海外で生活している者が何人かいる。彼らが口をそろえて言うのは、日本

の伝統文化について聞かれることが多くて困るということだ。特に知識階級のパーティ

ーで「鳶口という金具で…」をやっていると相手にされないという。それは、国内でも

同じことで内容のないうすっぺらな話題しかもたない人間は付き合っても面白くない。

自分の国の文化を語ることもなく、いつまでも未成熟の植民地文化を語っていたのでは、

日本はますます世界から相手にされなくなってしまうのではないか。


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