●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、うまいタイトルの新シリーズつくりました。



シリーズ あんな話こんな話

こんにゃくや

大通りからちょっとはずれた住宅街の中に車の抜け道のような一方通行の道路があり、

その道沿いに古ぼけた看板がかかっている。

いわく「こんにゃくや」

野暮ったい看板とは大違いに建物はちょっとモダンでしゃれた造り。それもそのはず

この店はなんと美容院なのである。

誰でもがなんだ、なんだ、美容院がなぜこんにゃくやなんだ? ほかにいくらでも美

容院らしい、ビューティサロンとかカットファイブとか横文字のシャレた名前があろ

うものに、何か深い訳があるのか? なんてついついお節介にもその深い訳とやらを

想像をしてしまう。

ひょっとしてそこが店の狙い目で、皆に関心をもってもらい、ちゃっかり宣伝効果に

寄与しようとしているのかも…と深読みまでする。

気になって、人づてに真相を聞いた。

こんにゃくやは確かに昔こんにゃくを扱っていたのだという。先先々代ぐらいまでこ

んにゃくを作って売っていたが時代が変わりこんにゃくだけではたちゆかなくなり、

娘がいて美容師になったので、店の跡を美容院として再生した。なんでもとても孝行

娘で長年こんにゃくに愛着を持っていた両親のために名前だけは残そうと「こんにゃ

くや」という店名にしたそうだ。

その娘だって今ではいい歳のはずだ。或いは2代目かもしれない。今では珍しい島田

を結える技術を持っているそうだ。根強い固定ファンがいて、結構店は繁盛している

とか。

因みに、近所に蒲鉾、さつま揚げなどおでん材料を作って売る「八州屋」というおで

ん屋があり、このこんにゃくやと取引があったという。

今でも私は時々八州屋からおでん材料を買っている。こんにゃくやのこんにゃくも食

べてみたかった。


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