●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんにとっては、猛暑猛暑も好きは好き、だった。



シリーズ 生き物をダシにして

夏が逝く

8月が終わろうとしている。

相変わらず暑いけれど、さすがに夕暮れ時の風は秋の気配を感じさせる。日差しも部屋

の奥へ奥へと射し込むようになった。

自称“夏女”にとって夏が終わるのは寂しい。

夏は「夏休み」「暑さ」という言い訳のもとに、怠けようが冒険をしようが何をしてい

ても許される解放感がある。

真っ青な空、真っ白な入道雲、強烈な太陽、深い木々の緑、すべてに生命力がみなぎっ

ている。

私は元気!元気!といってどこかに出かけたかと思うと、大威張りでぐたぐた怠けたり

する。

ひたすらかまびすしいアブラゼミがそれをはやしたてる。

夏バンザイなのだ。

ところが、今日ツクツクボウシの声を聞いた。

あのどこかお説教じみたあの鳴き声を聞くとああ、もうだめだ、秋なのだと観念する。

何がだめなのか自分でもよくわからないが、そろそろ地道な生活、勤勉さを取り戻さな

くては思うのかもしれない。

さすがに都会からはヒグラシの声は聞くことはできなくなったが、ヒグラシの声を聞く

ともういけない。物悲しく諸行無常の念がわき、感傷的になってしまう。

そういえば、私の姉夫婦はヒグラシの声の聞こえる所に住みたいといって、山梨へ引っ

越していったことがあった。

「ヒグラシが鳴きだすとたちまち幽玄な世界が広がって、ああ、いいなあと思ったけど、

そのうち、かなしい、かなしい、と訴えかけてくるようになったのよ」

姉はそういって、寂しい、寂しいと4年ぐらい田舎暮らしをして、また東京へ戻ってき

てしまった。



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