●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、自分の気持に正直な人に会いました。


ムコさん

地区で行われた展覧会の受付をした。

一緒になったのはかなり年配の女性でムコウヤマさん。

ムコウヤマさんの絵は海辺の荒れた番小屋を描いた20号の力作で、新聞にこの番小

屋の写真が載っていて興をそそられ早速現地に行って描いたという。

お歳に似合わず行動的!

暇だったので問わず語りにこんな話をしてくれた。

「私見合い結婚だったの。新婚の頃、ダンナを“あなた”なんてとても恥ずかしくて

呼べなかったから、タツオさんって呼んだら、姑に怒られましてね。それでなんと呼

ぼうかと考えた挙句、ムコさんって呼ぶことにしたの。

ほら、ムコウヤマって名前がいいにくいでしょ。主人は親しい人からはムコさん、ム

コさん、て呼ばれていたの。ムコさんは婿さんに通じるし、私とても気に入ったので

それでいこうって考えたわけよ。そしたら、また姑が“おかしい”って文句いうのね。

でもこのときは姑を無視してずっとムコさんで通しちゃった」

ほほう、ムコウヤマさんって結構利かん気なんだなあ。でもとてもほほえましくてイ

イ話!

すると、ムコウヤマさんはガサゴソとバッグの中を探してから小さな巾着袋をつまみ

だした。

「主人は亡くなって5年経つけど、この中に私のムコさんの骨が入っているの。肌身

離さず持ち歩いていつも一緒」

とにっこり。

げっ! お骨を! ここまでくると夫婦愛もちょっと異様な感じだ。


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