●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、くもにシンパシーを感じました。
くもの巣
夏場は暑いし蚊も出るので、庭の手入れをさぼっていた。
朝、すっかり荒れてしまった庭の片隅に蜘蛛の巣を見つけた。
直径50センチぐらいはある大きいもので、ほぼ等間隔に放射状に縦糸を張り、横糸が
それをつないでいる。それは朝日にあたりキラッと光っていて、なかなか美しかった。
中央に創造主である蜘蛛は8本の足を2本ずつ前後に寄せ、頭を下に向け、つまりXの
字になって「どうだ」といわんばかりに収まっていた。腰のふくらんだ部分に鮮やかな
黒と黄色の縞模様があるのでこがね蜘蛛である。
彼の哲学は“果報は寝て待て”“待てば海路の日和あり”“棚からぼたもち”の類で、
巣をこしらえたらあとは暢気に待っているだけなのだ。
「いい気なヤツめ!」と私は持っていたほうきを持ち上げて巣を壊そうとしたそのとき、
一陣の風が吹いた。蜘蛛の巣はゆさゆさと揺れただけでもちろん壊れない。蜘蛛はとみ
ると、糸に張り付いていて微動だにしない。平気の平左だった。
私はそりゃそうだ、この程度の刺激でオタオタしていては生きていけないもんね、とナ
ットク。
なにしろこがね蜘蛛にとっては生活がかかっている。雨が降っても風が吹いてもこうし
てじっと食べる獲物が引っかかるのをひたすら待つしかない。
芸術的な形の蜘蛛の巣といい、待ちの人生といい、ひたむきさが伝わってきて、そんな
に悪くないんじゃないかと思った。そして蜘蛛の巣を見逃すことにした。