●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新聞記事から表情を追加のシリーズ、スケールの大きい話。



新聞ネタ独白シリーズ

皆既日食

長生きはするもんじゃね。

わしゃ、100歳だが、今度で7度目の皆既日食じゃ。いつ見てもこの天体ショーはドラ

マチックだ。

今回は車椅子だから船に乗った。船長が気象データを駆使してちゃんと見られる洋上を探

してくれるから、それこそ大船に乗ったつもりで観測できるんじゃ。

ところで新聞の「46年ぶり皆既日食」という大見出しにはアレっと思ったね。

日食だって?確か以前は日蝕と書かなかったっけ?いつのまに虫がとれて日食になったの

じゃ?

蝕を訓読みにするとむしばむ、虫がものを食ってそこなう、とか害するといった意味だね。

つまりイメージが悪いからなのだろうか?それでは虫の立場がないじゃろう

だんだん世の中軽くなるんだね。

日食じゃお日さまの食事、月食ならお月さまの食事だね。

やっぱり虫を入れて日蝕でなきゃ。

欠けていく状態がまるで目に浮かぶようだし、崇高で神秘的で意味深で人生観だって変わ

る重みがある。小説の題にだってなるんじゃ。

蝕は常用外漢字なので使用されなくなったのかもしれないが、略せばいいというものでは

ない。

だいたい宇宙というものはそんなに軽々しく扱えない奇跡のような偶然でなりたっている

んじゃよ。

もし、太陽の位置がほんの少しでも地球に近づいていたら、人間は火だるまになり、ほん

の少し遠のいていたら、氷の塊になって生きていられないそうだ。

月と地球の距離も少しでも縮まっていれば、人間は立っていられなくなりアミーバーのよ

うになってしまうというじゃないか。

太陽と月と地球の三角関係は絶妙な位置を保ってくれるお陰で、人間は生かされているん

じゃ。生かされているこの命ゆめゆめおろそかにしますまい。

次の皆既日蝕は26年後。わしゃ長生きしてがんばるぞ。


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